【今日のニュースから】名優・西田敏行氏の死を悼む~西田氏との思い出・「人情の篤さ」に感動
俳優の西田敏行氏が亡くなった。驚きとともに悲しみが押し寄せてくる。
76歳……まだ若すぎる。
私はドラマで2回、そしてなんとバラエティで1回、お仕事をご一緒させていただいた。
最初は、2001年の新春に放送した10時間ドラマ 新世紀ワイド時代劇『宮本武蔵』だ。これはまだテレビ東京が正月に長い時間の時代劇を放送していたころのもので、主演は上川隆也氏、私はまだAP(アシスタント・プロデューサー)だった。もうひとつは同じ年の3月に放送した浅田次郎氏原作の『天国までの百マイル』である。こちらも役割としてはAPだったが、名匠・大山勝美監督のいぶし銀のような演出と味わいのある西田氏の演技を身近で見られたことは、大きな喜びだった。
そしてバラエティだが、これはしばらくたって2010年4月に私が総合演出・プロデュースした『世界の動物わくわ、くドキドキ新発見!どうぶつここイチバン!』という動物バラエティ番組で、何と「司会」をしていただいたのだった。当時、西田氏は他局においてゲストとして出演し、スタジオ収録で見るVTRの内容に感動して涙を流すその様子が、好評かつ話題になっていた。私は過去にドラマでご一緒していることを理由に、所属事務所のオフィスコバックの小林保男社長に頼み込んで、この役を半ば強引に引き受けていただいた。
期待通りに、西田氏はVTRの動物たちの話を見て、涙を流したり、感動したりしてくれた。そのおかげで番組はとても感動的な内容に仕上がった。スタジオ収録が終わったときにお礼を述べた私に、西田氏は言った。
だって、2本もドラマを一緒にやったんだもんね!
私はこのとき、西田氏の今回の出演は「西田氏が過去の私との縁を大切に思ってくれて、引き受けてくれた」から実現したのだということを悟った。
この例からわかるように、西田氏は「人情」の人だった。ひととひととの付き合いや縁を大事にする、そしてそのために仕事をする、そんな俳優だった。だから、同じ俳優だけでなく私たちのようなスタッフも西田氏が大好きだった。西田氏と仕事をするとみんなファンになった。
西田氏に関してはたくさん思い出があるが、一番印象に残っているのは「アドリブ台詞」の逸話である。撮影のときには「西田氏は台本を覚えてこない」と言われていた。そしてリハーサルをあまりしない。「一発本番」の「よーい、スタート!」で始まる演技はほとんどアドリブだ。だが、あるとき気が付いた。
西田氏は「台本を覚えてこない」のではない。実は完璧に読み込んで覚えきっているのだ。そしてそれを踏まえたうえで台詞を全部捨て去って、現場でその役と向き合っているのだと。
すごい俳優だ。もっともっと、その演技表現を見ていたかった。
日本の芸能界は、惜しい人を亡くした。
「TBS NEWS DIG」より