【今日の新聞から】三重県桑名市の「上げ馬神事」で関係者が書類送検されたー動物愛護と無形文化財の狭間にあるもの

三重県桑名市の多度大社で毎年おこなわれている「上げ馬神事」。その神事を主催する氏子組織の関係者らを書類送検すると三重県警が発表した。馬を興奮させるためにたたいたり蹴ったりしたことが「動物愛護法違反容疑」にあたるという。きっかけは、動物愛護団体「PEACE」などの複数の団体が県警に告発したことだ。上げ馬神事は、南北朝時代に起源があるとされる行事で、県無形民俗文化財に指定されている。馬が坂を駆け上がり高さ2メートルの土壁を超えた回数で農作物の豊凶を占う伝統行事だが、ここ十数年で馬がけがをして安楽死をさせていた。そのことが大きな非難を浴びていた。

批判を恐れずに言おう。このままだと、動物が絡む日本の無形文化財は滅びるだろう。そんな文化財は滅びていいという考え方もあるだろうが、それは短絡的だ。ただ、世界的に「アニマルウェルフェア(動物福祉)」が浸透しつつあるいま、動物の扱いについて社会がセンシティブになっていることを主催者側も十分に理解している必要がある。かつて、日本では馬と共に暮らす生活があった古い習慣についても知っておく必要があるだろう。「人間の友」という意識を持つことで、扱いも変わってくるに違いない。
大切なのは、「動物愛護と無形文化財」の線引きだ。動物保護を主張する側も、単にエキセントリックな視点で伝統行事を見るのではなく、その習慣の歴史や成り立ちを知ることも肝要だろう。お互いの歩み寄りと理解によって、「動物愛護と無形文化財」は成り立つはずだ。だが、そういった「協働」ができないと、「上げ馬神事」は消滅するだろう。
そういった意味で、私は「このままだと、動物が絡む日本の無形文化財は滅びる」と述べたのだ。

「中日新聞オンライン」より

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