【報告】日本映像学会 映像人類学研究会 第6回研究会を開催しました
昨日、28日㈰に本学桜美林大学ひなたやまキャンパスにて、日本映像学会の分科会で、私が代表を務めさせていただいている映像人類学研究会の第6回研究会が開催されました。とてもよい会だったので、皆様に報告いたします。
映像人類学研究会は、初回の開催から3年でこれまで5回の研究会をおこないましたが、いずれもオンラインでした。今回は念願の対面をふくめハイブリッド開催でした。北は北海道、南は九州からとまさに日本全国から多くの参加者の方をオンラインでつなぎ、会場には、アニメーション作家の若見ありさ氏をお迎えしました。テーマは「アニメーション・ドキュメンタリー」です。
近年、脚光を浴びているアニメーション・ドキュメンタリーの領域は、ドキュメンタリーの本来の目的とされる「客観的な事実表現」よりも、記憶などの「主観的なイメージ」や記録しえなかった事柄を再構築することで映像化し、「共有する」ことを目的としていると解釈されています。プライバシーの保護のためにインタビュー映像をアニメーションに加工したものや、過去の記憶などの主観的イメージ、あるいはカメラが存在しなかった出来事の目撃談などをアニメーション化したものなど、その手法は多様性に富んでいます。著名な作品例としては『戦場でワルツを』(イスラエル、2008)、『FLEE フリー』(デンマーク、2021)、『はちみつ色のユン』(フランス・ベルギー・韓国・スイス、2012) などがあります。
アニメーション・ドキュメンタリーの特性は、一言でいえば「カメラでは映せない現実に迫る」という点です。同様にドキュメンタリーの創造性に注目するならば、フィクションとの境界線は案外低いものであり、アニメーション・ドキュメンタリーのみならず様々な映像にドキュメンタリー的な要素を見出すことも可能であると推察されます。従来、ドキュメンタリーとアニメーションとは相容れないとみなされてきたなかで、アニメーション・ドキュメンタリーという新しい領域はどのような可能性を押しひろげているのでしょうか。そのことを検証するために、まずドキュメンタリーの概念を再検討する必要があると考え、本研究会はドキュメンタリーの概念を捉え直す契機として、アニメーション・ドキュメンタリーの実作者の講演・対話を通して、多様な映像表現のあり方を展望してみたという次第です。
ゲストスピーカーには若見ありさ氏を迎えました。若見氏の略歴を紹介すると……自身の体験から企画し制作をした出産にまつわるオムニバスドキュメンタリー・アニメーション『Birth-つむぐいのち』(2015)https://www.youtube.com/watch?v=y5h_Yd3zjbw『Birth-おどるいのち』(2017) https://www.youtube.com/watch?v=53ISQy63wLg『Birth-めぐるいのち』(2020)がLos Angeles Documentary Film Festivalベスト監督賞ほか多数受賞。2020年度文化庁映画賞・文化記録大賞受賞の長編ドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」(坂上香監督)アニメーション・パートを監督。宮崎県の民話を地元の方にインタビューを行い、語り部さんと共に制作した「ガラッパどんと暮らす村」は映文連アワード2022文部科学大臣賞を受賞するなど高い評価を得ています。
そして取り上げた作品は『Birth-つむぐいのち』(2016年)です。本作は出産をテーマにした女性監督による短編アニメーションオムニバス作品です。出産は人間の数だけ異なる体験があり、たとえ医療が進歩しても時には命を落とす可能性もあります。いのちの誕生の不思議さ、つながっていくいのち、出産の現実と苦悩、喜びを幅広い世代に伝えていきたいという狙いからアニメーションという手法を採用したといいます。本作は、3名の異なる体験談をもつ女性に出産体験を語ってもらい、そのひとつずつの物語をアニメーション作家3名がそれぞれの体験談に合わせたアニメーションの技法により映像化し、オムニバス作品『Birth-つむぐいのち』として公開されました。若見氏は企画・総合監督をつとめ、そのうちの一エピソード「水の中の妊婦」を監督しています。楽器の演奏者やタイトル制作者などのスタッフに多くの女性スタッフが参加しているのも特色となっています。
若見さんのアニメーションは砂や火山灰を使った独特の手法で作られており、とても深みと温かみが感じられる作品で私も大好きです。
そして講演は、アニメーション・ドキュメンタリーの「特性」からはじまり、「利点」や「可能性」など、とても示唆に満ちた素晴らしいものでした。本学からは私のゼミの学生(現ゼミ生の3年生や入ゼミ予定の2年生)が多数参加しましたが、講演後は活発に質問をするなどとてもよい学びになったと感じました。何より、私にとってはアニメーション・ドキュメンタリーの「共有」という特性を実際のクリエイターの話で確認できたことが大きな収穫だったと考えています。これはドキュメンタリーや映像人類学の基盤となる狙いであり、不可欠な要素であるため、今後、アニメーションと実映像が融合していく作品作りの可能性を感じさせられてとても力強い支援を得たような気持ちでした。
そして、この会の最大の目的とも言える「次世代のクリエーターを育成する」ということにおいても、全国から多くの学生が参加してくれたことや本学のゼミ生の活発な意見交換があったことで、今後の方針も明らかになった気がしています。
今後も、映像人類学研究会は、実際のクリエイターをお招きして実体験をヒヤリングするという活動を積極的におこなっていきたいと思いますので、皆さまも応援、注目ください。田淵俊彦 拝
若見ありさ氏「情報科学芸術大学院大学」HPより
とても素敵な取り組み!
岡仁様
コメントをありがとうございます。そう言っていただくと励みになります。岡さんも今度、参加されませんか?