【気になる書籍から】東大卒の青年が救護施設の現場に…『よるべない100人のそばに居る。』

『よるべない100人のそばに居る。』(河出書房新社)という書籍を紹介したい。
これは私の大学時代のゼミの同級生のお子さんが書いたものだ。前にもこのHPに書いたが、ゼミは法学部法律学科のゼミで、専攻は「刑法」。少年法や死刑存廃論などを研究していた。
同期のお子さん、著者は御代田太一氏という。書籍のプロフィールにもあるように、東京大学の教養学部時代に聴講した講義で「福祉」のことを知り関心を抱き、卒業後、滋賀県に移り住んでいきなり福祉の世界に飛び込んだ。その行動力と決断力には驚かされる。
私は日頃、大学の教育の場にいて、正直「最近の学生はおとなしいなぁ」と感じている。私の前や公の場でそうなだけかもしれないが、コンプライアンスがうるさくなんでも情報公開されてしまう今の社会では、なかなか思い切った行動がとれないという状況にあることもよく理解している。
しかし、この御代田氏からはそんな「躊躇」は感じさせられない。興味を持ったことに飛び込んでゆく行動力がある。社会福祉法人グローに就職して、「生活支援員」として派遣されたのは「ひのたに園」という救護施設だ。
「救護施設」とは、さまざまな理由で住まいや仕事、身寄りを失った人が身を寄せる場所で、当然、いろいろな事情を抱える人がいる。その体験を綴ったのが本書だが、これがとてもリアルで素晴らしいのだ。正直言って、最初は「同期のお子さんの本だから読んでみるか」という感じだったのだが、一気読みをしてしまった。そしてさらに御代田氏が文中で「本書を書くきっかけとなった」と薦めている六車由実氏の『驚きの介護民俗学』も読んでしまった。
御代田氏の分析が優れている点は以下の2つだ。
1.まなざしや視点が低いこと
2.映像的であること

まず1.だが、前述の六車氏の分析もとても実践に基づいていておもしろいのだが、タイトルからもわかるようにどうしても学問的な部分がぬぐい切れない。その点、御代田氏のまなざしは「救護施設の人たちに寄り添って」いて、視座が高くなく、考え方や思いが対象者の目線にまで降りている気がした。
そして2.だが、御代田氏の文章表現は視覚的で、描く人物像が立体的だ。また記述している出来事が、ひとつのシーンの映像として浮かんでくるのである。
んー、これは計算して書いているのか、それとも無意識なのか……。
私は、思わず御代田氏に「ドキュメンタリーを撮ってみたらどうか」と薦めてしまったほどだ。
それにしても、記憶喪失の人、刑務所から出所した人、無国籍の外国人、などなど個性豊か(失礼!)な人々がまるで舞台を観ているかのように、次から次へと登場してくる。
是非、皆さんも手に取ってみてほしい。

「河出書房新社」HPより

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