【活動報告】日本映像学会で研究発表──テレビドラマの「IP戦略」と収益構造の変化を分析

本日12月19日㈯は、日本映像学会東部支部研究発表会で、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修の教授として研究発表を行った。
会場は東京工芸大学1号館1206教室。映像研究に関心を持つ研究者や学生、教員などの学会員が集まり、熱気に包まれた雰囲気の中での発表だった。

今回のテーマは「民放テレビ局におけるドラマ制作のIP戦略と収益構造の変化」だ。
近年、テレビドラマは単なる番組ではなく、映画化や配信、グッズ、イベント、海外展開などを含む「IP=Intellectual Property(知的財産)」であり、それを資産化する動きが強まっている。広告収入の減少や制作費の高騰という厳しい環境の中、各局がどのように戦略を変えているのかを分析した。地上波広告収入は依然として主要な収益源だが、減少傾向が続く一方、配信収益は急成長している。こうした状況を踏まえ、各局の特徴を詳しく紹介した。

日本テレビ若者向けのSNS連動型ドラマ縦型ショート動画を強化し、Huluオリジナルとの連動も進めている。『ブラッシュアップライフ』『放送局占拠』などSNS映えを意識した作品が特徴で、さらに『君と世界が終わる日に』シリーズではメタバース要素を取り入れた新企画も展開している。地上波広告は微減する一方、HuluやTVerでの広告・サブスク収益は前年比25%増と大きく伸びている。
テレビ朝日は『相棒』『仮面ライダー』『ドラえもん』といった長寿IPABEMA連携で再活性化し、若年層との接点を再構築している。さらにVTuberドラマアニメ実写化にも進出し、映画化やイベント展開も積極的だ。ABEMA広告収益は前年比10%増、仮面ライダー展などのイベント収益も増加傾向にある。
TBS国際市場を意識した大作志向を強化し、Netflixとの連携グローバル配信を推進している。『VIVANT』の成功を受け、続編やスピンオフの共同開発も検討されており、『フェルマーの料理』などスケール感のある作品が海外販売比率を押し上げている。Netflix契約により制作費回収と利益確保を両立している点も特徴だ。
テレビ東京製作委員会方式でリスクを分散し、深夜枠を活用したニッチIPを長期運用している。『孤独のグルメ』『きのう何食べた?』など、食や旅をテーマにした作品でコアファンを獲得し、グッズ・配信・海外販売で安定収益を確保している。海外販売収益は前年比8%増と堅調だ。
フジテレビWebtoon原作海外IPとの共創ショートドラマ展開など新しいフォーマットに挑戦している。韓国カカオやタイGMMとの共同制作による『転校生ナノ』などが代表例で、FOD会員数は前年比12%増。『silent』『いちばんすきな花』『婚活1000本ノック』など人気作を軸に、配信・グッズ・イベントを組み合わせたマルチユース戦略を加速している。

こうした戦略は国際共同制作フォーマット輸出の潮流とも結びつき、アジアや欧米との連携が進んでいる。『おっさんずラブ』のタイ版リメイクや台湾との共同開発など、IPのグローバル展開は制作費分担や技術共有を可能にする一方、文化的調整や権利管理の複雑化という課題も伴う。総務省による4K・VFX・AI技術活用支援や国際共同制作補助金が、こうした動きを後押ししている点も紹介した。

質疑応答では「どの局が海外展開に強いのか」「IP化によって制作会社などの現場へのしわ寄せはどうなるのか」といった質問が寄せられ、国際展開の課題や文化的責任について活発な議論が交わされた。こうした議論を通じて、映像産業の未来に向けた新しい視点を共有できたことは大きな収穫だった。

今回の発表は、桜美林大学での私の研究活動を広く発信し、学内外におけるプレゼンスを高める機会となった。今後は、IP戦略が視聴者の文化的リテラシーに与える影響を定量的に検証し、国際共同制作における権利管理や文化調整の実態を比較研究する。さらに、AIやデータ分析を活用した制作効率化がクリエイティブの自由度に与える影響を評価し、持続可能な制作モデルを設計することを目指す。
地上波が「IPの起点」として再定義される時代に、公共性と創造性を両立させる方策を探ることが、次世代の映像研究における重要なテーマになる。

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