敬愛する俳優・仲代達矢氏との「至福のとき」

1月11日発売の拙著『混沌時代の新・テレビ論』の書影は、皆さんににもお知らせしたとおりだが、この書籍を書こうと思ったきっかけについてはまだ話していなかった。
これは本書の「あとがき」にも記しているが、そこから抜粋してご紹介しておこう。

本書は敬愛する俳優、仲代達矢氏の言葉から始まった。
仲代氏とはいまから25年前の1998年に、テレビ東京開局35周年記念企画『仲代達矢・海を渡りて ネシアの旅人〜もうひとつの海のシルクロード』というドキュメンタリー番組で太古の縄文人の足跡をたどって1年以上、一緒に旅をした。
仲代氏に教育現場への転職の報告をしたときのことだった。無名塾で若者たちへの演技指導をおこなってきた仲代氏は、私の選択にいたく賛同してくれた。と同時に、「いまのテレビは腐敗しているから、教育の力で若い世代から変えていってください」という言葉を贈ってくれた。
テレビが腐敗している?
「テレビはヤバい」「オワコンだ」とは言われてきたが、正直「腐敗している」とまでは思っていなかった。しかし、大学教員という立場になって違った視点でさまざまな事象を見直してみると、これまで「内部にいた私」には気づかなかったテレビの矛盾やおかしなところが次々と浮き彫りになってきたのである。
この本は、7か月前の私には書けなかった。
テレビ業界の内部にいる自分の立場的にというより、近すぎてわからなかったり見えないことばかりだったからである。

そして昨日、本書の見本が上がってきたので、報告がてら仲代氏のマネージャーである若尾氏に連絡をした。するとすぐに若尾氏から折り返しがあり、「仲代に代わります」とのこと。「おっと!」と緊張する暇もなく、仲代氏のお元気な声が聞こえてきた。
「田淵さん!お元気ですか?」
そして、「私は91になってしまいましたよ!でも頑張って生きてますよ!!」と溌溂とした張りのある声で幸せな気分になり、嬉しくなった。
番組撮影時に仲代氏と1年以上にわたって、ミクロネシア、ポリネシア、メラネシアという3つの「ネシア」そして南米まで旅をした時間は「至福のとき」だった。時間を忘れるほど、「帰りたくない」と思うほど楽しかった。
仲代氏の誕生日は12月13日だ。『ネシアの旅人』のときもちょうどサモアかサタワル島で仲代氏の誕生日を迎えるということで、無名塾生全員の映像コメントをもらって編集して現地で見てもらったことを思い出した。だから、91どころかもうすぐ92だ。いつまでも長生きしてお元気でいていただきたい。
本当にお元気そうで、そして前向きなお言葉に「さすが」と感じるとともに、小さなことでくよくよしていたり、くだらないことで悩んでいる自分が恥ずかしくなった。
やはり、仲代氏は私にとっていつまでもいつまでも「敬愛する人」である。

御年、当時66歳の仲代達矢氏 パプアニューギニアのトロブリアンド諸島にて *なんと!この島に私たちは民泊しました。もちろん、仲代氏も一緒です。

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