豊川悦司さんをはじめ多くの俳優を育ててきた敬愛する万代博実氏が亡くなった…残念でならない
私が敬愛するアルファエージェンシーの万代博実氏が亡くなった。昨日17日、NHKの勝田夏子氏から連絡があり知ったのだが、同日にはHPでもその逝去が報告された。
万代氏は豊川悦司氏、萩原聖人氏、柄本佑氏、高橋和也氏、余貴美子氏、和久井映見氏などの錚々たるベテラン俳優や近年では伊藤紗莉氏、毎熊克哉氏などの若手演技派俳優も数多く育ててきた。その役者に親身になるマネージメントには定評があるが、みな万代氏の人柄に魅かれて集まっていたのだと私にはわかる。
私が万代氏と知り合ったのは前職のテレビ東京時代で、先輩のドラマ・プロデューサー不破敏之氏に連れられて行った乃木坂のバーだった。その時の印象は「怖いけど、かっこいい人」というイメージだった。それ以来、なぜか気に入ってもらって、何度一緒に飲んだだろう。当時は30代の生意気盛りの私の話を、いつも万代氏は否定もせずに黙って聞いてくれていた。そして話の最後に必ず言うのだった。
「田淵さんがいいと思うなら、いいんじゃない」
そんなふうに、万代氏は相手の気持ちを第一に考える人だった。だから、あれだけの名優を育てることができたのだろう。
万代氏の思い出は数多くあるが、「絶対に私を呼び捨てにしない」というのも忘れられないことのひとつだ。万代氏は私より一回り以上も年上だが、どんなに仲良くなっても「田淵」とは言わなかった。いつも「田淵さん」だった。
万代さんが繋いでくれた縁もたくさんあった。所属俳優の柄本佑氏とはドキュメンタリーでミャンマーに行った。私が勝手に「弟」のように思っている音楽家の稲本響氏はそのドキュメンタリーの音楽を担当していたが、万代氏が気に入ってくれてずいぶん重用してくれた。瀧本智行監督とつないでくれたのも万代さんだ。作家の小松成美氏には、「田淵さんに是非会わせたい人がいるんだよね。きっと気に入ると思うよ」と事務所で引き合わせてくれた。
私がテレビ東京を辞めて大学教員の道に進むかどうか悩んでいたときも、背中を押してくれたのは万代氏だった。そして、決意したときにとても喜んでくれて、新宿の串揚げ屋で真昼間から一緒に飲んだ。そのときの言葉も「田淵さんが選んだ道だから、それが一番いいと思うよ」だった。そして「応援するよ」と言ってくれた。
故人に不遜な言い方かもしれないが、「兄貴」のような存在だった。
悲しくてならない。
そして、悔しい。
万代氏は、「絶対に外に知られたくない」と自身の病気のことを隠し続けたという。
最後まで人生の「美学」を貫いた〝かっこいい〟人だった。