【「今日のタブチ」のおススメ映画】見事に日本版リメイクに成功した『最後まで行く』ー監督・藤井道人氏と岡田准一氏&綾野剛氏という2名優の圧巻コラボが決め手

Netflixで以前から気になっていた映画を視聴した。公開時に見たかったのだが、見られなかった作品『最後まで行く』だ。この映画は2014年に韓国で映画公開されたのちに、中国やフランスでもリメイク化されている。この日本版のリメイクには大きな2つのハードルがあった。

1.最初の公開から10年近くの年月が経っていること
2.リメイクはどうしても過去作やオリジナルと比較されてしまうということ

しかし、監督の藤井道人氏は見事にその2つのハードルを乗り越えた。藤井作品は登場人物の心理描写が細やかなことがその演出の秀逸さの特徴となっている。それが可能になるのは、監督自ら共同脚本を担当しているということだ。基本的に、脚本家へのリスペクトから勝手に監督が脚本に手を入れることはタブーとされている。だが、一方でそういう「遠慮」や「忖度」が、細部に至る演出を妨げているという現実もある。その点、藤井作品は共同脚本というタイトルによって、脚本家と対等な「台本手直し」ができるというシステムを構築している。これが、藤井作品の「繊細さ」の秘訣だ。
今回もそのメリットが存分に生かされた脚本になっていた。オリジナルの韓国版では「お都合主義」や「偶然性」によって物語が強引に進められている部分も多々見られたが、今回の日本語版にはそれがない。10年のときを埋めるかのような人物の緻密なバックボーンが、事件の展開にリアリティを与えている。
そして、2.の件に関しては、岡田准一氏、綾野剛氏という2人の俳優と藤井演出のコラボがこの作品をこれまでの既存のリメイクとの差を歴然としている。2俳優の「怪演」のベクトルは質が異なるものであって、同じ方向に向かってはいない。両者とも「怪演」だが、そこに被りがないのだ。そのため、こういった設定にありがちな「うっとおしさ」や「過剰さ」が2人の存在には感じられない。岡田氏演じる工藤がやっていることは正直、リアリティとは大きくかけ離れていて、「え、そんなことあるの?」というツッコミを入れたくなるようなシーンや展開もあるが、最終的には妙に「わかるよなぁ」と納得してしまうのである。これも、視聴者の心理をよく理解している藤井監督の緻密な計算によるものだ。見事な「化学反応」を起こしたと言っていいだろう。

久々に「没入感」のある作品を観ることができた。『クアイエット・プレイス』シリーズと双璧だ。そんな素晴らしい映画を体験するのはいまからでも遅くない。

「最後まで行く」公式サイトより

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