【番組考察】NHKスペシャル『ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』(2024/10/20放送)~メディア研究者として

私が出演したNHKスペシャル『ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』(2024/10/20放送)について、〝出演者として〟ではなく、メディア研究の研究者として考察、論考をしたい。
そのためには、今回の番組の当初の経緯から話しておかなければならない。
私は最初にNHKのディレクター・中川雄一朗氏から「今回は、ジャニー氏とメリー氏の人となりを描きたい」という説明を受けていた。中川氏は「クローズアップ現代」に所属時の2023年5月には、ジャニーズ性加害問題をいち早く報じ、継続的な取材によって同年9月に事務所を性加害の事実を認め謝罪をする会見に追い込んだ立役者である。
そして「ジャニー氏とメリー氏を知る人物にインタビューをして、そのインタビューで構成するドキュメンタリーを考えている」というような説明をしてくれた。私は、「モンスターの姉弟がどうやって作られたのか」「どこでこの姉弟が道を踏み外したのか」という切り口はこれまでにないので、やる意味があると思った。そして中川氏と何度も話をして、「この人は信頼置ける人だ」と思った私は、覚悟をして今回の仕事を引き受けることにした。

以上の経緯から分かるように、今回の番組は当初「ジャニー氏とメリー氏の実態をそのヒストリーから紡ぎ出すインタビュードキュメンタリー」であった。
だが、思うようにインタビューを受けてくれる人が見つからなかったのだろう。特に被取材者に関しては2つの大きな目的とハードルがあった。
1.当時、ジャニー氏やメリー氏と交流があったNHK上層部のインタビュー
2.旧ジャニーズ事務所の幹部のインタビュー

結果としてはどちらも実現せず、1.の代わりとなったのが若泉久朗氏への突撃インタビュー、2.の代りになったのがSTARTO社の補償本部長への電話取材だった。私はここに番組側の誤算があったと考えている。どちらも、ワイドショウさながらのドタバタ劇で終わってしまった。スケープゴートにされた両者は、見世物としては面白く視聴者は留飲を下げただろうが、そこからわかった新事実は何もない。若泉氏の受け答えの内容はひどいものだが、おそらくNHK内部でも「辞めた人間だからいいんじゃないの、出しちゃって」といったような判断があったのではないだろうか。
それに対して、前半のアメリカ検証部分は当初から中川氏がやろうと考えていたことだと思われるので、とてもよくできていた。なかなか当時を知る人々を探し出して交渉するのは大変だっただろうと思う。その成果はあった。なぜならば、「姉のメリー氏が昔から弟のジャニー氏を何かにつけて庇っていた」という裏付けは、旧ジャニーズ事務所の「二頭体制」をよくあらわしているエピソードだからだ。
また、私の「FridayジャニーズJr.スキャンダル事件」の話のメリー氏恫喝&テレ東冬の時代の下りのあとにアメリカから来た知人に歌舞伎の席を用意してあげたというエピソードをつないだあたりは、絶妙な構成だと感じた。つまり、前半はよくできていたし、当初の番組目的に沿ったものだった。
ディレクター・中川氏の粘り強い取材の勝利だと称えたい。

もうひとつ、私のインタビューの使い方に対しても一言がある。要所要所に使っていたことによって、いわゆる全体構成の骨子のような見え方やナビゲーションの役目を担ってしまっているように感じたが、はたして私のインタビューが水先案内人のようになってしまっていて良かったのだろうか。それは検証の余地があるだろう。

最後に、ラストに出てきたテロップに関してだが、これに対してはSNSなどでも意見が以下の2つに割れていた。
1.本当ならちゃんと表に出てこなければならないNHK上層部の人間が誰も出てこないことへの、制作現場の怒りのあらわれではないか
2.旧ジャニーズタレント起用再開への言い訳ではないか

私は、このどちらの解釈も正しいと考えている。現場側とNHK体制側、両者のWinWinのためにあのテロップは用意された。いわゆる両者の「ガス抜き」となっていた。

最後になるが、この番組はさまざまなところで物議を醸している。それだけ注目度が高い番組だった。だが、この番組はNHKでしかできなかった。そのことを民放のテレビ局関係者はいま一度よく考えるべきだろう。

「NHK公式HP」より

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