【今日のタブチ】NHK『未解決事件』取材班の《矜持》――重信房子を引きずり出した“歴史検証”の衝撃

先日、29日㈯放送のNHK『未解決事件 File.08 日本赤軍 vs 日本警察 知られざる攻防 前編』には完全にやられた。
「悔しさ」で歯ぎしりをする。そんな思いに久々に浸った。
私がテレビ局時代、自らが番組を作っているときには、ほかのクリエイターが制作した作品を観て「やられた!」と地団太踏んだり、「悔しさ」に胸が締め付けられたりすることがあった。それは、同じ作り手として「完全に負けた」と思うときだ。例えば、NHKの『イゾラド』を最初に観たときは、同じネイチャリング系の番組を作る者として、芳醇な予算と時間のかけ方に嫉妬した。だが、2023年にテレビ業界を退いてからは、そんな思いをすることはなくなった……はずだった。
だが、先日の『未解決事件』は、ファインプレーを見せる選手に嫉妬を感じるような気持ちになり、番組を見ながら思わず「やるなぁ……」と唸ってしまった。

番組の内容は、1970年代の日本赤軍によるハイジャックや大使館占拠事件を扱い、警察との攻防を新資料と証言で検証。具体的には、よど号ハイジャック、ロッド空港乱射、クアラルンプール事件、そしてダッカ日航機ハイジャックなど、日本赤軍の象徴的な事件群を網羅していた。 警察の元幹部、日本赤軍の元最高幹部を含む100人以上に取材した点も評価が高い。
しかし、重信房子氏を引っ張り出すとは思わなかった。あっぱれ。前回の贋作師・ベルトラッキ氏に続いての快挙だ。取材班の矜持に拍手喝采だ。
私は日本テレビ「NNNドキュメント」でストーカーや高齢初犯、少年犯罪などの加害者側に焦点を当てた。だから、“加害者”を画面に出すことの難しさを知っている。また、連合赤軍の植垣康博氏にも密着した。ゆえに、赤軍関係者との価値観の違いに隔靴掻痒の思いがした経験もある。
よくぞ、重信氏をカメラの前に引きずり出した。
番組で重信氏は「差別のない社会を目指した」と語った。しかし、その理想を掲げながら、武装闘争という手段を選んだ矛盾は、今なお重くのしかかる。取材班はその言葉を引き出し、視聴者に問いを投げかけた。

もうひとつ、番組を見ていて感じたことがあった。
赤軍によるハイジャック事件が起こったとき、「人命か、法秩序か」で当時の政治家たちが大議論したという説明ナレがあった。これは1977年のダッカ日航機ハイジャック事件で、福田赳夫首相が「人命は地球より重い」と発言した場面を指す。政府内では超法規的措置をめぐり激しい対立があり、法務大臣が辞任する事態にまで発展した。番組はその政治的葛藤を丁寧に描いていた。
そういったことをしっかりと悩み、議論するというようなことを、いまの政府や政治家たちがやるだろうか。それは甚だ疑問である。
当時の議論は、単なる理念論ではなく、国家の法秩序を揺るがす決断を迫られる深刻な政治的葛藤だった。その重みは計り知れない。

犯罪史の加害者に証言をさせること……何十年経っていても、この意義は大きい。来週の「後編」にも大いに期待したい。

「NHK ONE」公式HPより

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