【今日のタブチ】70歳が踊る舞台――FIDA GOLD CUPと《感動寿命》の“不思議な”関係

シニア世代がダンスを競う全国規模のコンテスト「FIDA GOLD CUP」というものがあるのを知った。今年で4回目、13都道府県から17チーム、総勢245人が参加し、平均年齢は70歳だという。
GOLDは「Good Old」(良い形で年を重ねている)という意味らしい。優勝賞金100万円、審査は技術・表現力・活力などに加えて年齢に応じた「GOLDポイント」もあるそうで、最高齢101歳までステージに立ったという報も目にした。

この手の試み、海外にも例がある。まず社交ダンスの世界では、65歳以上を対象にした「World Senior O/65 Ballroom Championship」がイタリアで開催されていて、ランキングも公式に出ている。高齢カテゴリーが国際競技の標準として根付いている証拠だ。
またバレエの世界には、英国ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンスが55歳以上向けに「Silver Swans」を展開している。モビリティや姿勢、協調性の改善、認知機能にも良い影響があるとされ、世界50か国以上に拡大している。座位中心のクラスなど、高齢者向けに安全に学べる設計が進んでいるのも特徴だ。
ヒップホップでも、年齢の壁は意外に低い。世界最大級の「World Hip Hop Dance Championship」は年齢区分を「ジュニア」「バーシティ」「アダルト」で切るが、アダルトは18歳以上の幅広い層が出場する。ニュージーランドの高齢チーム「Hip-Hop-Eration」は、かつてこの世界大会に挑戦してギネス記録を持つ“最年長ダンスグループ”として知られる。大規模イベントが年齢多様性を受け入れることで、シニアの参入余地が生まれている。

こうした舞台の共通項は、「見られる前提で、音楽と身体を同期させる」ことだ。人は誰かに観られると自然と背筋が伸びる。ダンスは振付の記憶・タイミング・空間認知が同時に問われるため、単に筋力維持の運動よりも脳への複合的な刺激が強い。FIDAの会場で語られた「音とズレないよう踊り、振り付けを覚えることで脳が活性化する」という説明は、まさにこの複合刺激の核心を突いている。

そして、もうひとつ。最近「感動寿命」という言葉を知った。感動の積み重ねが生きる力を延ばす、という考え方だ。用語自体はキャッチフレーズに近いが、学術的には「感動(kando)」の心理学研究がこの十数年で進んできた。日本で用いられる「感動」は、英語の being moved や awe などの近縁概念よりも広い意味を含み、身体反応(涙、鳥肌、胸の温かさ)と結びついた“価値の再確認”のプロセスとして整理されつつある。
感動は、心が動く瞬間に生まれる。驚きや共感、達成のドラマに触れたとき、私たちの中でエネルギーが湧く。強い緊張がほぐれる瞬間に「胸が熱くなる」あの感覚だ。最近の研究では、感動は単なる喜びではなく、驚きや困難の克服など複数の要素が重なって起きることがわかってきている
私が面白いと思うのは、ダンスのステージが感動を生む場として、二重の力を持っていることだ。踊る本人にとっては、挑戦することで自分の可能性や仲間とのつながりを再確認できる。そして観客は、その姿に胸を熱くする。舞台は、踊る人と見る人の両方に感動を届ける仕組みになっている。FIDAでよく言われる「見られることで若返る」という言葉は、科学的な表現ではないにしても、誰かに見られることで自分を奮い立たせる心理効果を考えれば、確かにうなずける。
ただし、感動は万能ではない。強い感動のピークは長く続かず、同じ刺激に繰り返し触れると「慣れ」が生じる。だからこそ、感動を長持ちさせるには、間隔を空けたり、体験に変化を加えたりすることが大切だ。

私が思うに、シニアのダンスは運動・認知・仲間との交流を同時に動かし、そこに「感動」を重ねることで心身の活力を生む。週に一度のダンスや観劇で心拍を少し上げ、誰かに見られる場面を作り、同じ曲や演目ばかりに偏らず新しい刺激を取り入れる。それだけで、感動の回路は長く保てるはずだ。
スポットライトを浴びて踊るシニアの姿は、第二の青春という言葉をただの比喩にしない。見られること、感動すること、年齢を生きること——この三つが、思っている以上に私たちの寿命の質を変える
あなたは最近、心が震えるような感動を覚えたことがあるだろうか。
なければ、舞台の近くまで歩いて行ってみてはどうか。そこで誰かが踊り、誰かが拍手している。そう想像する行為のなかに、寿命のもう一つのかたちが潜んでいる

「Dance Channel」HPより

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