そして、もうひとつ。最近「感動寿命」という言葉を知った。感動の積み重ねが生きる力を延ばす、という考え方だ。用語自体はキャッチフレーズに近いが、学術的には「感動(kando)」の心理学研究がこの十数年で進んできた。日本で用いられる「感動」は、英語の being moved や awe などの近縁概念よりも広い意味を含み、身体反応(涙、鳥肌、胸の温かさ)と結びついた“価値の再確認”のプロセスとして整理されつつある。 感動は、心が動く瞬間に生まれる。驚きや共感、達成のドラマに触れたとき、私たちの中でエネルギーが湧く。強い緊張がほぐれる瞬間に「胸が熱くなる」あの感覚だ。最近の研究では、感動は単なる喜びではなく、驚きや困難の克服など複数の要素が重なって起きることがわかってきている。 私が面白いと思うのは、ダンスのステージが感動を生む場として、二重の力を持っていることだ。踊る本人にとっては、挑戦することで自分の可能性や仲間とのつながりを再確認できる。そして観客は、その姿に胸を熱くする。舞台は、踊る人と見る人の両方に感動を届ける仕組みになっている。FIDAでよく言われる「見られることで若返る」という言葉は、科学的な表現ではないにしても、誰かに見られることで自分を奮い立たせる心理効果を考えれば、確かにうなずける。 ただし、感動は万能ではない。強い感動のピークは長く続かず、同じ刺激に繰り返し触れると「慣れ」が生じる。だからこそ、感動を長持ちさせるには、間隔を空けたり、体験に変化を加えたりすることが大切だ。