【おススメ書籍】『夢をかなえる魔女のルール』――単なるビジネス書を超えた、“人生劇変”のヒント
去年、ランチェスター戦略学会で出会った中に、武蔵境自動車教習所の社長・髙橋明希氏がいる。改めて、経歴を紹介したい。というのも、学会での社長の講演に感銘を受け、購入した著書『夢をかなえる魔女のルール 生きづらさを抱える2人の男女が人生を変えた物語』(2025年10月7日、あさ出版刊)を読んだからだ。本書は講演後にすぐ購入し、ずっと「読みたい」と思いながら、同時に「読むなら、時間が取れるときにじっくりと読むべきだ」と気になりつつ、なかなか時間が作れずにいた。そんな事情があったが、年末年始にやっと読むことができた。
武蔵境自動車教習所を率いる髙橋明希氏は、1976年生まれ。
白百合学園高等学校、獨協大学経済学部を卒業後、早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得し、スタンフォード大学APARCでデザイン思考を研究するなど、国内外で経営学を深めてきた。これだけでもかなりのキャリアなのだが、髙橋氏の猛進は留まらない。大学卒業後に家業である教習所に入社し、インストラクターを経て2009年に代表取締役社長に就任。現場主義を貫きながら、経済産業省「おもてなし経営企業50選」に選出されるなど、サービス革新を進めてきた。
髙橋氏は「共尊共栄」を理念に掲げ、教習所を「一生の思い出を創る場所」へと進化させた。髙橋氏と私のゼミは、2026年度に「産学連携」をおこない、ともに映像制作を進めようとしている。その打ち合わせのために先日、武蔵境自動車教習所を訪れた際に見せてもらったのだが、VIPルームやネイルサービス、託児所、手話・英語対応など、多様なニーズに応える“ユニークな”取り組みを導入。さらに、住民を巻き込んでのサマーフェスティバルやダンスフェスティバル、餅つき大会など地域イベントを開催し、教習所の枠を超えたコミュニティづくりを推進している。
さらに画期的なのは、こうした改革の結果として、武蔵境自動車教習所が中央線沿線で25年以上連続入所者数トップを達成し、近年は全国でも入校者数トップの実績を誇っていることだ。年間9,000名以上が利用し、売上高は23億円。さらに、オンライン学科を東京都で初導入。2030年までのカーボンニュートラル宣言を掲げ、教習車のハイブリッド化やEV導入を進めるなど、環境面でも先進的な取り組みを行っている。2025年には、制服デザインが優れた企業に贈られる「ベストドレッサーカンパニー賞」金賞を受賞している。私が訪れたときにも、待合室には若者が溢れていた。若年層の免許保有比率や自家用車保有率は低下傾向にあるなかで、驚くべきことだ。
髙橋氏は国内外での活動を広げ、2017年にシリコンバレーで「Brilliant Hope, Inc.」を設立。日本企業のイノベーション支援を目的に、デザイン思考やコーチングを提供し、米国と日本をつなぐコンサルティング事業を展開している。メディア出演や執筆活動も行い、経営者としての枠を超えた発信を続けている。武蔵境自動車教習所は、単なる免許取得の場ではなく、顧客体験と社会的価値を融合させた新しいモデルとして注目されている。
そしてここからは、本題の書籍の感想だ。
サブタイにあった『生きづらさを抱える2人の男女が人生を変えた物語』というフレーズで、私は読む前からすっかりラブストーリーだと思い込んでいた。しかし、それは“浅はかな”考えだった。
本書は、しっかりとしたビジネス書でありながら、「人生の指南書」でもあると感じた。形式としては、ビジネス書としては異例の「小説」だ。
同じような書籍に、私が「アフガンのお母さん」と呼び、慕ってやまない督永忠子氏の『赤いモスク』がある。これも、アフガニスタンの悲惨な状況に迫るため、フィクションではなく 取材にもとづく「セミドキュメンタリー」という形式を採り、肉迫する表現に仕立てている。このように事実を物語として描くことで、より“自由に”、しかも“リアルに”伝えることができるのだ。
髙橋氏の本書もそうだ。小説は、「私」という煎餅屋の一人娘でいまは和菓子屋で働く女性と、「僕」という文具店で働く男性の話が同時並行に進んでゆく。この2人の男女が「またね」という名前のバーの店主である魔女のようなママから、さまざまな教えを受けながら成長してゆく物語だが、2人を最後まで会わせなかったことも、この小説が「秀逸だ」と私が感じた所以だ。
本書のキモは、「10+1のルール」がビジネスにとどまらず、「人生のあらゆるチャンス」をつかむヒントとしてストーリーに巧みに織り込まれている点だ。以下はネタバレになってしまうが、少し述べさせてもらいたい。
不機嫌だと人生は損をする、仕事以外の趣味を持つ、新しいことにチャレンジする、身だしなみには気を配る、つらい体験から逃げない、などのルールは、社会人としてのマナーや教えとして、若者だけでなく、私のような年代の者にも、いや「私のような年代の者ほど」教訓とすべきことではないかと思った。
一方、人の目を見て話せ、挨拶は自分からしろ、わからないことは聞け、簡単なことほど手を抜くな、などといったことは、すべて私がADのときに先輩Dから言われてきたことだった。「声が小さい!」「伝わらない!」と怒られ、「挨拶が聞こえない!」と叱咤され、「知ったかぶりをするな」「聞いて教えてもらえるだけいいと思え」と言われてきた。ロケ弁を配るときに、「なんで大学出てまでして、こんなことをやらなければならないのか」と不満を抱えていた私に、先輩は「簡単なことにこそ、学ぶべきことがある」と教えてくれた。それは、いまも私が学生たちに伝えていることだ。
「ロケ弁を配ることで、その場でどんな人が働いているか、すべてのマネージメントが把握できる」
そんなことには、当時は気がつきもしなかった。
今の学生にも教えたい、気にしてほしいこと。そして、社会人としてのマナーや教えとして、若者だけでなく私のようなロートルほど、教訓とすべきことがこの本には詰まっている。「ビジネス」という範疇にとどまらない、市井の人々や、学生にも示唆を与える啓蒙書だと感じた。
新学期になったら、ぜひ学生たちに読ませたい。きっと、髙橋社長や武蔵境自動車教習所と連携して、素晴らしい映像が出来上がることだろう。
「アットプレス」HPより


