【今日のタブチ】全国大学ラグビー選手権・明治大学の勝利が問いかける――大学スポーツに潜む未成年不祥事の連鎖を断ち切るために
全国大学ラグビー選手権の決勝は1月11日、国立競技場で明治大学が早稲田大学を「22―10」で下し、7大会ぶり14度目の日本一を手にした。この勝利は称賛に値する。
しかし、私は同時に、大学スポーツにおける未成年不祥事の連鎖を見過ごせない。
今回の王者も昨夏、20歳未満を含む部員の飲酒が発覚し、5名の活動停止と監督・部長への訓戒という処分を公表している。強要やハラスメントは否定されたが、事実として未成年飲酒が起きたことは重い。
日大では、アメフト部の薬物問題に続き、ラグビー部寮で大麻強要や窃盗被害の訴えが報じられ、大学側は「目撃なし、尿検査陰性」と結論づけたが、保護者や元部員は再調査を求めている。これらは偶発ではなく、構造の問題だ。
なぜ不祥事は繰り返されるのか。
私は四つの面での要因を挙げたい。
一つ目は文化面だ。大学スポーツの現場には、上下関係や「伝統」という名の同調圧力が強く残っている。これが飲酒を儀礼化する温床になる。米国の公衆衛生研究では、こうした儀礼を「ハイジング(hazing:しごきや入部儀式)」と呼び、アルコールが高頻度で介在することを示している。学生アスリートも例外ではない。予防策としては、キャプテンや幹部を対象にした「ピア・リーダー教育(peer leader training:仲間の模範となる行動を学ぶ研修)」が有効とされる。
二つ目は環境面だ。日本の調査では、一人暮らしの学生ほど飲酒スコアが高い傾向がある。未成年層でも「友人と飲む」「社会的に飲まざるを得ない」という感覚が行動に結び付く。監督やコーチの目が届かない寮や私室で事案が起きやすい。つまり、生活空間の管理が不十分なことがリスクを高めている。
三つ目は心理面だ。競技のプレッシャーや学業、将来への不安が重なる学生アスリートは、ストレス対処として飲酒や薬物に手を伸ばしやすい。米国の研究では、負傷による痛み管理が「オピオイド(opioid:強い鎮痛薬)」の誤用につながるリスクが報告されている。日本ではオピオイドの使用環境は異なるが、「我慢文化」が敷居を下げる点は共通している。
四つ目は統治面だ。内部調査で「目撃なし」「尿検査陰性」と結論づけられると、組織は安全宣言を出したように見える。しかし、匿名で通報できる仕組みや第三者の関与がなければ、潜在事案は表に出ない。通報しやすい制度設計が不可欠だ。
海外の実証は示唆に富む。米国の大学スポーツを統括するNCAA(National Collegiate Athletic Association:全米大学体育協会)の最新調査では、学生アスリートの過去年飲酒率は72%と依然高いが、「ビンジ飲酒(binge drinking:短時間に大量の酒を飲む行為)」は10年で大幅に減った。これは「ハームリダクション(harm reduction:被害を減らすための現実的な対策)」と教育の積み重ねによる成果だ。さらに、米国国立アルコール乱用・アルコール依存研究所(NIAAA)は、大学飲酒による18~24歳の年間死亡を約1,500人と推計している。個人の節度ではなく、公衆衛生の問題として扱うべきだ。
以上を踏まえて、私は六つの提案をしたい。
1.飲酒ゲーム回避やペース管理を含む「PBS(Protective Behavioral Strategies:飲酒による危険を減らすための行動戦略)」を取り入れ、学年単位で運用する。
2.キャプテンと幹部にピア教育を義務化し、文化を内側から変える。
3.匿名通報と第三者窓口を設け、受付から調査、処分、支援までの流れを透明化する。
4.寮や私室の夜間リスクを設計し、学生当番と教職員巡視を組み合わせる。
5.疼痛管理とメンタル支援の導線を常時可視化し、我慢文化を是正する。
6.最後に、未成年飲酒やハラスメントの年次サーベイ(survey:定期調査)を継続し、改善と公開をセットで運用する。
以上の6つを併用しながら、NCAAのように長期トレンドを持つことが、対策の効果検証に不可欠だ。
今回、明治大学を勝利に導いた神鳥裕之監督は「一瞬の気の緩みで、それまでの努力が失われることもある」「全体の問題として受け止めるように」と語った。この言葉を制度に変換するところまで行かなければならない。
勝利は偶然ではない。安全もまた、偶然ではない。
私は、称賛と課題が並走するこのタイミングで、大学スポーツが、勝つだけではなく、“安心と社会的責任を伴う強さ”へ舵を切るべきだと考える。
強さは結果だけでなく、文化と倫理を含めて評価される時代なのだ。
「NHKニュース NHK ONE」より


