【今日のタブチ】熊が“人を恐れなくなった”日本で、鷹と向き合う女性たちの理由

今日、「鷹匠(たかじょう)」として活動する姉妹の記事を読んだ。
令和の日本で、姉妹が猛禽類を扱う伝統技能の世界に入っているというニュースは、人によっては意外に感じられるかもしれない。しかし、私にとってはむしろ自然な流れのように思えた。というのも、私は10年以上前に、この世界で先頭を走っていた女性鷹匠を実際に取材しているからだ。

「鷹匠」とは、鷹などの猛禽類を飼育・訓練し、狩猟をおこなう伝統技能者のことだ。鷹狩りは中央〜西アジアで約4,000年前に発祥したとされ、日本でも『日本書紀』に355年の仁徳天皇の記述が残るほど古い歴史がある。2010年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
今回紹介されていたのは、NPO法人日本鷹匠協会に所属する成田京華氏(30)と、妹のあいら氏(25)だ。現在、日本で鷹匠を名乗る人は50人ほどで、そのうち女性は10人前後に過ぎないとされている
その希少性を考えれば、姉妹でこの世界に身を置くというのは特筆すべきことだ。
しかも、彼女たちが磨いている技の多くは、一般のイメージとは違って“派手な狩り”ではない。工場やマンションの害鳥駆除に出向いたり、イベントやフライトショーに出演したり、鷹の餌の管理や訓練など、日々の作業はどちらかと言えば地味なものばかりだ。
それでも続けられるというのは、相当な覚悟と、鷹に対する深い愛情がなければ不可能だろう。
「伝統の技と魅力をたくさんの人に伝えたい」という彼女たちの言葉には、静かな力強さがにじんでいる。
この姿に、私は10年以上前の記憶を重ねた。
2014年、テレビ東京『Crossroad』で私は鷹匠・大塚紀子氏を取材した。翌2015年、大塚氏は450年の歴史を持つ諏訪流第18代宗家を継承することになる。諏訪流の初代は信長や家康に仕えた鷹匠で、まさに将軍家の直系に連なる伝統だ。
撮影の合間、大塚氏は「昔は“女性のくせに”と言われることもあった」と静かに語っていた。
その言葉の背景にあったであろう孤独や葛藤は、当時の私には測りきれなかったが、彼女の一挙手一投足から滲み出る“覚悟”だけは、しっかりと感じ取ることができた。
今でも忘れられないのは、「手をかければかけるほど、相手はこちらの気持ちを察してくれるようになる」という彼女の言葉だ。
鷹という野生を相手にしながら、そこに“信頼”が生まれるという事実。その関係性の深さは、映像を撮っているこちらが背筋を正すほどだった。
同じ“野生”という言葉でも、昨今の熊問題は対照的だ。いま日本では、熊の出没が住宅地や市街地にまで及び、人間を恐れない個体(いわゆる“アーバンベア”)が増えているとされる。 2025年はクマの被害が過去最多の235人に達し、死傷者は全国に広がった。
野生との距離感が崩れ、人と動物の間に本来あるべき“緊張と敬意”が失われつつあるという指摘もある。
だからこそ、大塚氏が語った「信頼を積み重ねる」という営みが、どれほど稀少で、どれほど丁寧な関係性なのかが際立つ。

さらに今日、成田姉妹の記事を読みながら、私は当時の取材が“点”で終わることなく、いま確かに“線”になっていることを実感した。
あの頃、大塚氏がひとりで切り拓いていた場所に、いまは若い女性が自然に立っている。“普通ではない仕事”を選ぶ若者が増え、動物や自然との関係に新たな価値を見いだす人も増えている。その変化が、鷹匠という古い伝統にも確実に届いている。
学ぶことも、続けることも、決して派手ではない世界だ。地味で、手間がかかり、時間を捧げ続けなければ成果が見えない。だからこそ、その営みを続ける人々には深い敬意を抱く。
あのストイックな伝統は、これからも静かに継承されていくだろう
そしてその未来の中に、今日の記事の姉妹の姿もきっとあるに違いない。

「東京新聞デジタル」より

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