【今日のタブチ】衆院選の陰で「結婚推進バブル」が静かに破裂している――都の婚活政策が“時代遅れ”というワケ

東京都の「婚活」事業について、気になったので書こうと思う。
2026年度当初予算案の発表にあわせ、東京都は前年度(2025年度)の都税収入が伸び、一般会計は前年度より4,950億円(5.4%)増の9兆6,530億円となったことを明らかにした。特別会計などを含めた全体規模は18兆6,850億円に達する見込みだという。
都の台所が潤うのは悪いことではないが、潤沢な財政で行政サービスを厚くすればするほど“東京一極集中”という非難はつきまとう。私は、今回の2026年度当初予算案の事業計画の中でひとつ引っかかったことがあった。それは、小池都知事の言葉だ。
「結婚のきっかけにしたい特別な1年。東京全体で(令和)8の年の結婚を応援していきたい」
今年1月に始めた「TOKYO八結び」キャンペーン倍増額約7億円を計上。23年の交流イベントやウェブ相談、24年のAIマッチングアプリ導入に続き、新年度からは官民連携も広げ、都が連携する団体の式場で挙式した8千組に8,888ポイントを付与するという。少子化に手を打つ姿勢は理解する。だが、ポイントや特典で“釣る”設計が目立ちすぎるのが、私には気になる。

若い人たちの中には、結婚したくない人もいれば、事情があってできない人も当然いる。税収で増えたカネを投入し、「結婚する人=善⇔結婚しない人=悪」という同調圧力のような空気を社会に生み出していないか。個々の尊厳や人権を損なうことに繋がらないか。これは杞憂かもしれない。だが、実際に“押し付け”的な婚活支援をやめた自治体は、すでにあるのだ。
和歌山県は約10年続けた結婚支援事業を2023年度で廃止した。岸本周平知事は「結婚は個人の判断領域で、価値観を押し付けるものではない」と明言。民間の充実も踏まえ、費用に見合う効果が出ていないことを理由に挙げた。県主催のイベントは累計164回、約4,700人が参加し、730組のカップルはできたが、結婚に至ったのは35組という実数が出ている。だからやめた。
三重県の伊賀市も同様だ。岡本栄市長は「『結婚して子どもを産む』という古い価値観を、国や自治体が押し付けるべきではない」として、民間婚活イベントへの補助を打ち切った。背景には、“税金で出会いの場を作る”ことの妥当性と、効果が限定的だという判断がある。
海外に目を向ければ、韓国の自治体主導イベントでは、3年間で4,060人が参加したにもかかわらず、結婚に至ったのはわずか24人だった。 国会でも“無駄だ”と批判され、実際に事業を中止する自治体も出ている。費用対効果の低さに加え、女性参加者の不足や男女比の偏りなど、現場での運用上の歪みも深刻だ。
では西欧はどうか。ここが肝だ。
西欧では、日本や韓国のように自治体が前面に出てマッチングを主催する形は一般的ではない。その代わり、結婚や家族に税制や給付でインセンティブを与える政策が長く続いてきた。しかし近年の研究では、こうした“結婚ボーナス”が女性の就業を抑制し、ジェンダー格差を固定化する“ロックイン効果”を生むことが指摘されている。欧州委員会JRCの分析でも、複数の国で結婚優遇税制が男女間の不平等を拡大し、制度そのものの廃止を提言する議論まで出ている。
イギリスの「Marriage Allowance」は導入から年数が経った今も利用率が5割未満で、制度設計の複雑さと低額ゆえに「効果が弱い」「失敗だったのではないか」という批判が強い。未申請額は24億ポンド規模に達し、恩恵は高所得男性に偏り、女性の就労意欲を下げる要因とも指摘されている。イタリアでも与党議員が教会式の結婚に最大2万ユーロの「ウェディング・ボーナス」を提案したが、「世俗国家の原則に反する」「偏った優遇だ」との批判が噴出し、修正を余儀なくされた。金銭インセンティブで結婚を誘導する発想そのものが持続性も公平性も欠くとされた。
要するに、西欧でも“結婚を促す政策”は効果が限定的で、副作用の大きさから見直し論が主流になりつつあるということだ。

こうした国内外の状況を見渡すと、結婚を「数」で押し上げようとする政策は、すでに世界ではトーンダウンしている。それなのに東京都はいま、ポイント付与やAIマッチングの強化に踏み込んでいる。私は、これがむしろ時代に逆行した、旧態依然の発想ではないかと感じている。都の現在の取り組みは、流れの変わった世界の議論から大きく遅れていると指摘せざるを得ない。
行政には誰も落とさないが必要だ。幸せを作り出すことも大事だが、不幸せな人を生み出さないことは同じだけ大事だ。結婚という極めて私的な選択に、税やポイントで圧をかけるのではなく、非婚・事実婚・ひとり親・LGBTQを含む多様な家族形態と生活を、等しく尊重し支える方向へ舵を切るべきだ。西欧のエビデンスが示すのは、“結婚そのもの”を誘導しても出生や生活の質は思ったほど上がらないという現実だ。上げるべきは、住宅・所得・保育・働き方という基盤であって、“婚姻届の提出率”ではない。

「東京新聞デジタル」より

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