【今日のタブチ】名門ワシントン・ポスト「大量リストラ」の衝撃――ベゾス経営の“致命的な”判断ミスと報道の失墜
アメリカの有力紙ワシントン・ポストが大規模なリストラに踏み切った。削減規模は全従業員の約3割、300人以上にのぼるという。
私にとってワシントン・ポストといえば、1972年のウォーターゲート事件の報道で、政府の様々な圧力に抗い、不正を許さず、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ記者たちのことが思い出される。ウォーターゲート事件の取材では、二人の若手記者ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインが、FBI内部告発者“ディープ・スロート”の情報をもとに、民主党本部盗聴事件とホワイトハウスの関与を粘り強く暴いた。
当時小学生だった私は、のちに書籍や映画などでそのことを知り、「ジャーナリスト」という言葉とともに憧れを抱いたものだった。
しかし、そんな名門ワシントン・ポストも、2013年にアマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏に買収されてからは、運命の潮目が変わったのかもしれない。
全従業員の約3割を削減するとは、いったいどんな考えがあるのか。大富豪さながら“利益第一優先”でそんなことをやっているのだとすると、報道機関の名が廃る。
そもそも私は、昨今よく聞く「大量リストラ」については懐疑的だ。最近では、日本でも大手 IT 企業や出版社が数百人規模の早期退職を実施し、デジタル移行の“効率化”を名目に人員整理が続いている。
もちろん、経営を立て直すためには、人件費を削減するという方法が手っ取り早いことはわかる。だが、会社というものはヒトが創り出すものではないか。
アメリカの経営学者ジェイ・バーニー氏は、企業経営に不可欠とされる3つの基本的な経営資源、「人材(ヒト)」「有形資産(モノ)」「資金(カネ)」に「情報」を足して「経営の四大資源」を提唱した。この順番が「ヒト・モノ・カネ・情報」となっているのには意味がある。「ヒト」が最初に来ないと、ビジネスは成功しないからだ。
そもそも、「権力に屈しない新聞」ワシントン・ポストが熱狂的な読者層を失ったのは、ベゾス氏の経営者としての手腕の失態が原因だ。デジタル対応が遅れたばかりか、24年の大統領選でトランプ氏に配慮し、当時副大統領だったハリス氏の支持を見送ったことだとされる。この判断は社内の反発を招き、意見欄編集者の辞任を引き起こし、読者の離反にもつながった。
このことで、20万人以上が有料の購読を解約したことは記憶に新しい。
そういった経営責任を、「大量リストラ」で補おうというのだから、大事業家が聞いてあきれる。もっと先にやることがあるのではないか。特効薬は、さまざまな手を尽くした最後に投与するべきだ。
ベゾス氏は、懲りずに宇宙事業にうつつを抜かし、民間有人宇宙船「ニューシェパード」の再開発に多額の投資を続けている。
さらにアマゾンは、トランプ氏の妻メラニア氏を追ったドキュメンタリー映画のライセンス料に何と4千万ドル(約60億円前後)を投じようとしている。
これでは、リストラされる人々も浮かばれない。
最後に、日本の新聞も同じような道を辿っているのではないか——と、私は強い危機感を覚える。紙の購読者減により、主要全国紙が相次いで販売店網の縮小や編集部門の再編に踏み切っている現状は、決して他人事ではない。
映画『大統領の陰謀』のロバート・レッドフォード氏も草葉の陰で泣いているのではないかと、心配だ。
「東京新聞デジタル」より


