【今日のタブチ】文京区の督促状が炎上した本当の理由・・・人は文字ではなく映像に支配される

今朝の新聞を見ていて、思わず目が止まった。

東京都文京区が国民健康保険料の滞納者に送付している督促状の封筒が批判を浴びているという記事である。その封筒には多数の「目」が描かれている。区としては見落としを防ぐための工夫として導入したそうだが、一部の受け取った人からは「監視されているようで不快だ」「威圧感がある」といった声が上がったという。

私はこの記事を読んだ瞬間、「なるほど」と思った。なぜなら、人はまず文字を読む前に映像を見るからだ。テレビの世界では当たり前の話である。
どれほど優れた内容でも、まず見てもらえなければ始まらない。番組の宣伝でもニュースのテロップでもポスターでも、制作者はまず相手の目を引こうとする。そのために色を工夫し、写真を工夫し、レイアウトを工夫する。
しかし、ここには難しい問題がある。
見てもらうための工夫が強すぎると、受け手は内容よりも先に「圧力」を感じてしまうのだ。
今回の督促状もそうだろう。送り手は「大事なお知らせだから見落とさないでほしい」と考えた。しかし受け手は「見張られている」と感じた。同じデザインを見ても、送り手と受け手では意味が変わってしまうのである。

実はたまたま昨日、私も似た感覚を味わった。
娘が20歳になった。その直後に国民年金への加入を促す書類が届いたのである。
私は国民年金制度そのものを否定するつもりはない。社会保障制度を支える重要な仕組みであり、国民の義務でもあると思っている。
ただ、その案内を読んでいて少し驚いた。
もちろん制度の説明も書かれている。しかし、それ以上に目立ったのは「前納するとどのくらいお得か」「親が支払うと社会保険料控除の対象になる」といったメリットの数々だった。赤い文字や大きな数字が目に飛び込んでくる。
読んでいるうちに、ふと奇妙な感覚になった。
これは社会保障制度の説明なのだろうか。それとも通販のダイレクトメールなのだろうか。
もちろん加入者を増やしたい事情は理解できる。国民年金を取り巻く環境は厳しい。厚生労働省によれば、令和5年度の国民年金保険料の納付率は77.6%で、加入者数も減少傾向にある。制度を維持するためには納付率向上が重要な課題になっている。
だが、その現実を理解したうえでも考えてしまう。
本来であれば、「なぜこの制度が必要なのか」「社会全体にどのような役割を果たしているのか」を丁寧に説明することが先ではないだろうか。
ところが現代社会では、その説明よりも先に「どう見せるか」「どう反応させるか」が重視される。私は、これはネット広告に慣れた現代人に迎合する傾向だと見ている。
今回の文京区の督促状も、娘に届いた国民年金の案内も、その意味では同じ構造を持っているように見える。
まず、見てもらう。そして、反応してもらう。最終的に、行動してもらう。
そのために思考の導線をデザインし、言葉を選び、視覚効果を狙う。

恐ろしいのは、テレビやSNSの世界だけの話ではなく、行政の広報ですら、いつの間にか同じ発想で動くようになっているということだ。
私は長年、映像の現場にいた。だからこそ思う。
映像などの視覚情報には力がある。人の注意を引く力がある。人の感情を動かす力がある。そして時として、人に考える前に反応させてしまう力がある。
文京区の督促状をめぐる議論は、一見すると小さなデザイン騒動に見えるかもしれない。
しかし私には、その背後にある「まず反応させることを優先する社会」の方が気になった。
行政も企業もメディアも、そして私たち自身も、「理解すること」より「反応すること」に慣れ過ぎてはいないだろうか。
人は文字よりも視覚情報に動かされる。だからこそ時には立ち止まり、その情報が本当に伝えようとしているものは何なのかを考える必要がある。
今朝の新聞記事は、そんなことを改めて考えさせてくれたのである。

今日のVoicyは、ブログにも書いた娘に届いた国民年金保険加入のご案内。ネット広告のような行政文書に違和感を抱いた話をします。
#078 20歳になった娘に届いた一通の手紙で考えた、行政が“広告化”する時代
https://voicy.jp/channel/1027821/8306811

「東京新聞デジタル」より

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です