【今日のタブチ】「嘘が真実になる瞬間」の不気味さ――毎日新聞書評欄に公開された論考とその核心

昨日は学生の引率で一日中外に出ていて、ブログを書く時間が取れなかった。「毎日、ブログを書く」ということを自らへの“枷”にしている私としては、毎日運動しているのにたまたま運動できない日があるように少し居心地悪く感じてしまう。こういう日は珍しいのだが、その代わりに、毎日新聞の書評欄で私の論考が公開された。せっかくなので、その内容について簡潔に触れておきたい。

論考の出発点に置いたのは、ごく個人的な体験だ。同窓会で、事実ではないはずの出来事が「あったこと」として語られ、それが周囲の同意によって強化されていく。冗談として笑って済ますこともできる場面だが、私にはどこか薄気味悪いものとして残った。繰り返し語られることで、人の記憶はいとも簡単に書き換えられる。その感覚こそが今回の書評の問題意識だ。

取り上げた書籍は、1985年の日航123便墜落事故をめぐって再び広がっている「自衛隊撃墜説」を検証した『日航123便墜落「撃墜説」の真相 海上自衛隊元最高幹部が解き明かす』(PHP研究所刊)だ。著者の真殿知彦氏は元海上自衛隊の最高幹部であり、内部事情を知る立場から、この説を構成する主張を冷静に分解していく。ミサイルの性能、護衛艦の行動、当時の訓練の実態といった具体的な事実に照らし合わせながら、一つ一つの論点を検証していく手法は、感情ではなく事実に依拠したものであり、それゆえに強い説得力を持つ。

中でも印象的なのは、撃墜説の根拠として広く流通してきた「機内写真」の再検証である。撮影場所や条件、さらにはカメラの特性にまで踏み込んで分析を行うその手つきは、まるで推理小説を読むような緻密さを伴う。単に否定するのではなく、なぜその誤解が生まれたのかというプロセスまで含めて解き明かしていく点に、この書の力がある。

さらに重要なのは、著者が自衛隊にとって不利となりかねない事実、たとえば救助の遅れや情報公開の不十分さにも目を背けていない点だ。この姿勢が、本書を単なる組織擁護から切り離し、検証としての信頼性を担保している。

そして本書が最終的に問いかけるのは、「何が語られ、何が語られなかったのか」という問題である。情報が過剰に流通し、かつ分断が進む社会において、科学的根拠と適切な取材に基づく情報が示されなければ、人々は何を信じてよいのか分からなくなる。その状況を著者は「人類の悲劇」とまで表現する。

ここにあるのは単なる事故分析ではない。誤情報がいかにして社会に浸透し、事実らしさを帯びていくのか、その構造そのものへの鋭い批判だ。だからこそ本書は、現在の情報環境を考える上で示唆に富む、優れたメディア論として読むべき一冊だと評価した。

同窓会での違和感と、40年前の事故をめぐる言説の広がりは、一見無関係のようでいて、実は同じ地平にある。嘘が真実に変わるのではない。真実が、語られ方によって書き換えられていく。その危うさをどう引き受けるのかが、いま私たちに問われている。

「毎日新聞」より

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です