【今日のタブチ】イルカもダイバーも島民も泣いている――東海汽船問題が突きつけた“日本の宝”伊豆諸島の危機
東海汽船の伊豆諸島への大型客船や高速ジェット船が国の使用停止命令を受けたというニュースに接し、強い衝撃を受けた。
報道によれば、酒気帯び状態での当直勤務やアルコール検査の不正など複数の法令違反が確認され、国土交通省は大型客船「橘丸」と高速ジェット船2隻について20日間の使用停止命令を出したという。今回の処分は、知床観光船事故後に導入された制度に基づく初の適用事例とされる。
もちろん安全軽視は許されない。人命を預かる公共交通機関なのだから、厳しい処分は当然である。しかし、私が今回感じたのは怒りだけではない。残念さだった。なぜなら、この問題の影響を受けるのは会社だけではないからだ。島民の生活であり、物流であり、観光であり、そして伊豆諸島の豊かな海だからである。
私はこれまで何度も伊豆諸島に通い、ダイビングを楽しんできた。三宅島や御蔵島といえば野生イルカで有名だ。特に御蔵島周辺には100頭を超えるミナミハンドウイルカが生息し、世界でも有数のドルフィンスイムスポットとして知られている。現在でも多くの観光客やダイバーが訪れ、イルカとの共生を前提とした観察ルールのもとでツアーが行われている。
私自身も、その海でイルカと一緒に泳いだことがある。野生のイルカが目の前まで近づき、身体を傾け、こちらを観察するように泳ぎ去ってゆく光景は今も忘れられない。
神津島や神子元島ではドリフトダイビングも体験した。潮流の速い海域で流れに身を任せて潜る独特のダイビングである。黒潮の恩恵を受ける伊豆諸島の海は大型回遊魚にも恵まれ、首都圏から数時間でアクセスできる海としては世界的にも貴重な環境だ。水中でカジキマグロを目撃したときの感動は今でも忘れない。
だから私は以前から思っていた。この海は単なる観光資源ではない。「日本の宝」である。
思い出すのは2000年の三宅島噴火だ。島民は全島避難を余儀なくされ、観光産業も大きな打撃を受けた。当時は「イルカも減ったらしい」「もう昔のようには戻らないのではないか」という話も耳にした。しかし、その後、島の人たちは懸命に努力を続けた。ダイビングショップも宿も観光関係者もあきらめなかった。そして再び多くの人々が島を訪れ、イルカと出会い、美しい海を楽しむようになった。
ようやく復活してきたところだったのである。だから今回のニュースは本当に残念だ。
地元では物流や観光への影響が懸念されている。東京と伊豆諸島を結ぶ航路は島民生活を支える生命線であり、年間利用者は約60万人にのぼると報じられている。私の知るダイビング関係者も悲鳴を上げている。
「予約が壊滅状態だ」そんな声も聞こえてくる。
もちろん、環境保護は重要だ。観光客が増えればそれで良いという話ではない。オーバーツーリズムによって自然環境やイルカたちの生態に悪影響が出れば本末転倒である。しかし、観光客が来なくなれば島の経済も持続できない。
自然を守りながら地域経済も守る。その両立こそが重要なのである。
そして、その役割を本来担うべきなのは国ではないのか。
今回の問題を単なる一企業の不祥事として終わらせてはならない。もちろん、再発防止は徹底しなければならない。しかし、同時に、影響を受ける島民や観光事業者への支援も必要だ。さらに言えば、伊豆諸島という海洋資源をどう守り育てていくのかという長期的な国家戦略まで議論されるべきだろう。
予算不足ならまだ手は打てる。災害なら復興という道筋も見える。だが人災は本来防げたはずの損失を生み出す。だからこそ責任は重い。
イルカも、ダイバーも、島民も泣いている。今回の出来事を単なる不祥事ニュースで終わらせるのではなく、日本が誇る伊豆諸島の海をどう守っていくのかを考える契機にしてほしい。
東京から船で一晩。
その先に広がる海は、間違いなく「日本の宝」なのだから。
今日のVoicyは、伊豆諸島への定期船停止のニュースを見て思い出した、野生のイルカとカジキマグロ。海の中で出会ったときの興奮と感動を伝えます!
#073 なぜ私はイルカを求めて伊豆諸島へ通ったのか
https://voicy.jp/channel/1027821/8285073
「東京新聞デジタル」より


