【今日のタブチ】「嫌で嫌で仕方がなかった」書道教室、大人になって実感した“意外な”価値――「書道」無形文化遺産へ

今朝の新聞を読んでいて、とてもうれしいニュースを見つけた。
書道がユネスコ無形文化遺産への登録を目指し、政府が正式に提案したという記事である。
実は私、書道五段である。もっとも学童部の五段だから、たいした威張れる話ではない。書道には学童部と成人部があり、私が取得したのは子どものころの段位である。
しかし、このニュースを見て真っ先に思い出したのは、自分の情けない少年時代だった。

私は親、そして特に祖母が厳しい家庭で育った。
小学校へ入ると、書道、剣道、詩吟と、まるで昔の日本男児の見本市のような習い事をさせられていた。
ところが当時の私は、それが嫌で嫌で仕方がなかった。詩吟は祖母自身が教えている教室だったので逃げようがない。しかし剣道と書道は外の教室だったので、隙あらばサボろうとしていた。
特に苦手だったのが書道である。市民会館のような板張りの広い部屋に正座をさせられ、黙々と字を書く。そして書き終わると、前方にどっしりと座った先生のところへ持っていって添削を受ける。あの独特の緊張感が苦手だった。
なにより正座がつらかった。当時の私は落ち着きがなく、長時間じっと座っているのが本当に苦手な子どもだった。
そこで考えたのがサボりである。私は書道教室へ行くふりをして、毎回のように近所の田口君の家へ遊びに行っていた。
さらに悪質だった。持たされていた月謝袋がそのままだと家族に怪しまれる。私は月謝をくすねて、田口君と駄菓子屋へ行き、いろいろなお菓子を買って食べ、楽しんでいたのだ。今なら完全にアウトである。
だが、子どもというのは浅はかなもので、「これで完璧だ」と思っていた。しかし、もちろん、そんな悪事がいつまでも続くはずがない。
ある日、書道の先生が祖母に電話をしてきた。
「最近、田淵君は来ていないようですが、具合でも悪いのですか?」
祖母は事情を知らない。そこから私の犯行はあっさり発覚した。その後どうなったかは、あえて詳しく書かない。皆さまのご想像にお任せする。
もっとも、当時の私は「こんな習い事に何の意味があるのだろう」としか思っていなかった。

ところが不思議なものである。
大人になり、テレビ局でドラマやドキュメンタリーの仕事をするようになると、出演していただいた俳優やタレントの方々へ礼状を書く機会が少なくなかった。私はできるだけ手書きで礼状を書くようにしていた。舞台や出演作を見ると、知り合いの演者には感想の手紙を書いた。すると相手の方から、「田淵さん、字がお綺麗ですね」と言われることが何度もあった。そのたびに、ふと子どものころの書道教室を思い出したものだ。
もちろん、私の字が特別うまいわけではない。しかし、筆記用具の持ち方や字の形、丁寧に書こうという意識は、間違いなくあのころの経験が土台になっている。そう考えると、当時は嫌で嫌で仕方がなかった書道教室も、まったく無駄ではなかったのだろう。
子どものころには意味がわからない。なぜこんなことをやらされるのか理解できない。しかし何十年か後になって、その経験が思わぬ形で自分を助ける。人生とはそういうものなのかもしれない。

だから今回の書道の無形文化遺産登録への動きは、個人的にも非常にうれしい。
日本人が長い年月をかけて育んできた文化が、世界的な評価を受けることは素直に歓迎したいと思う。
そして記事によれば、政府は次の登録候補として「温泉文化」も目指しているという。こちらもぜひ実現してほしい。
幼いころには価値がわからなくても、後になってその大切さに気づくものは少なくない。書道も温泉文化も、日本人の日常の中に当たり前のように存在してきたからこそ、その価値を忘れがちである。
見る人が違えば、価値観も違う。世界の評価をきっかけに、私たち自身がその価値を再発見できればいいと思う。

今日のVoicyは、書道のユネスコ無形文化財登録への動きのニュースで思い起こした私の「さぼり経験」を暴露します!
#101 書道教室をサボり続け、月謝で駄菓子を買っていた私が「書道」無形文化遺産のニュースで思い出したこと
https://voicy.jp/channel/1027821/8391552

「沖縄タイムス+プラス」より

“【今日のタブチ】「嫌で嫌で仕方がなかった」書道教室、大人になって実感した“意外な”価値――「書道」無形文化遺産へ” に対して2件のコメントがあります。

  1. 出口勇人 より:

    いや!いいね!
    書道の「道」は、その技、精神、を学び極めるものだと私も思う。「剣道」「柔道」「茶道」「華道」、、然り。

    1. 田淵 俊彦 より:

      出口様
      コメントありがとうございます。
      しかし、私はその「道」を極められませんでした・・・。
      ダメですね。
      田淵 拝

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です