【今日のタブチ】書籍『オウム真理教の子どもたち』とドラマ『九条の大罪』に通底する問い――きみは、自分の“責任”を果たせているか

NHK「クローズアップ現代」取材班による著『オウム真理教の子どもたち 知られざる30年』を読んだ。
オウム真理教に捜査の手が入った際、施設から運び出された、ヘッドギアを装着していた子どもたち。彼らに「何とか話を聞きたい」と食い下がった取材班の執念には、ただ頭が下がった。

取材班は、保護された53人全員に手紙を書いた。しかし30年前の出来事だ。あて先不明で戻ってくる手紙もあれば、住所そのものが消えてしまっているケースもあった。実際に現地へ足を運んでも、その場所は様変わりし、すでに存在しないことも多かった。
53人は全国の児童相談所へ分散され、教団の地元だった山梨には、ひとりも残っていなかったという事実も、その困難さに拍車をかけている。全国各地の教団施設から保護された子どもの数は、合計で112人。16か所にも及んでいた。

児童相談所で暮らす子どもたちに行われた心理検査、「HTP検査」も興味深かった。家(House)、木(Tree)、人(Person)の3つを描いてもらい、そこから心理状態を読み取るという検査だ。

本書では、その“オウムの子どもたち”のうち、3人に話を聞くことに成功している。
加奈さん(仮名)が語った、「被害者でもあり、加害者でもある」という言葉が、重く胸に残った。
健一さん(仮名)は、「家族にも同僚にも、自分がオウム信者だったことはバレていない。誰も素性を知らない」と語る。自分の過去を隠して生き続けることが、どれほどの緊張と孤独を伴う人生か、想像に難くない。
そして彼はこうも言う。「完全に遮断しないと無理。宗教2世で、うまくいったやつとうまくいっていないやつの差は、完全に人生をリセットできたかどうかだと思う。自分は本当に(過去を)遮断して生きてきた」
「オウム」という名が、ひとりの人生にどれほど重い影を落とし続けてきたのか。健一さんはそれを、「本当の過去を一生明かせないという十字架を背負って生きている」と表現した。その十字架を下ろせる日が来ることを、祈らずにはいられなかった。

一時保護の直後、あれほど過熱していたマスコミも、麻原逮捕後は事件や教団の真相究明へと関心を移し、子どもたちに関する報道は急速に減っていった。マスコミの「熱しやすく冷めやすい」という特性が、ここでも如実にあらわれている。子どもたちの人生にどう関わり、どこまで追い続けるのか。その問い自体が、検討されないまま置き去りにされ、マスコミの「メディアとしての責任」は、いつの間にかうやむやになった

本書は、「クローズアップ現代」(2025年3月18日放送)ほどのインパクトはない。モザイクやボイスチェンジが施されていても、映像で子どもたちを見る衝撃には及ばない。正直に言えば、文字にはそこまでの訴求力はない。
しかし、文字は映像よりも多くの情報を持ち、深い考察を与えてくれる。本書の優れた点は、子どもたちの悲惨な人生を描くだけで終わらせず、その責任の所在を問い続けたことにある。巻末では、数年後までは行われていた子どもたちに関する“オウム後”の研究が、いつの間にか途絶えていた事実が明かされる。支援の道は断たれ、子どもたちは本当の意味で、国からも社会からも放置されていた。あまりの残酷さに、しばらくページをめくる手が止まった。

誰かが救わなければ、誰が救うのか。
それは、私たち一人ひとりに突きつけられた“問い”だ。

同じ問いを突きつけられたのが、Netflixのドラマ『九条の大罪』だった。
この作品は、反社会的勢力や、世間から「悪人」と断じられた人間ばかりを弁護する、異端の弁護士・九条を主人公にしている。九条は、誰からも同情されず、社会から切り捨てられがちな人間の弁護を引き受け続ける。それは正義感というより、「誰かがやらなければ、その人間は最初から存在しなかったことにされる」という危機感に近い。
作中で九条は、「なぜ、そんな反社みたいな、悪いやつらの弁護をするのか」と問われ、こう答える。
「弁護士というのは、人を“救う”のが仕事だ」
九条が語る「救う」とは、情けをかけることではない。社会から切り捨てられた人間を、それでも制度の内側に留める。その役割を自分が引き受ける、という意味での「救う」だ。

その言葉には信念と責任がある。「誰かがやるだろう」「誰かが救ってくれるだろう」という、他人任せの無責任さ。それは、オウムの子どもたちに対しても、私たちが無意識のうちに向けてきた態度ではなかったか。
「自分が好きで反社をやっているんだろう」「自分でその宗教を選んだんだろう」。そんな“責任のすり替え”を、知らず知らずのうちにしてしまっているのではないか。

そう自分自身に問いかけるきっかけを与えてくれた、二つの作品との貴重な出会いだった。

「Netflix公式HP」より

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です