【今日のタブチ】H3ロケット成功は偶然ではない――失敗からの再起に潜む“決定的な理由”
H3ロケットの打ち上げ成功のニュースを読んだ。
これは紛れもない快挙だ。昨年の失敗からの再起。その裏にあったであろう悔しさ、そして言葉では表現しきれない試行錯誤と努力に思いを馳せずにはいられない。JAXAの関係者、そしてプロジェクトを支えた一人ひとりに拍手を送りたい。
今回の成功が特別なのには明確な理由がある。
大型ロケットとして、液体燃料エンジン主体でコスト競争力を追求し、商業打ち上げ市場を意識して設計された点だ。日本のロケット開発は、戦後間もないペンシルロケットに始まり、カッパロケット、ラムダロケット、そしてH-IIAへと発展してきた。その歴史は技術の積み上げであると同時に、「いかに打ち上げコストを下げるか」という課題との格闘の歴史でもある。高性能であるがゆえに高価になる。このジレンマが長く日本の宇宙開発のハードルになってきた。
私はドラマの撮影で種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)を訪れたことがある。ロケットの組み立てから発射、追跡までを一貫して行う日本最大の発射場。整然とした施設と、海に向かって開かれた射場のスケールは圧倒的だった。見学ツアーも充実している。
印象的だったのは、町の雰囲気だ。あちこちに「ロケット打ち上げ」を応援するポスターが貼られている。定食屋に入ったときにも「ロケットの街・南種子町」というポスターが目に入った。国家プロジェクトでありながら、それがきちんと地域の誇りとして根付いている。その温度感が伝わってきた。
そのときに関わった作品が、真山仁氏原作『売国』をもとにした映像化作品『巨悪は眠らせない 特捜検事の逆襲』だ。玉木宏氏が演じる東京地検特捜部の検事・冨永真一が、大物政治家の闇献金疑惑、そして宇宙開発を巡る陰謀に踏み込んでいく物語である。劇中には、日本のロケット技術が海外へ売り渡されるという展開が描かれている。
一見すると荒唐無稽なフィクションに思えるかもしれない。しかし、現実の歴史を振り返れば、あながち笑い飛ばせない部分もある。宇宙開発は常に「コスト」との戦いだった。時に政府内部でさえ「ロケットは金のかかるお荷物だ」だから「売り飛ばしてしまえ」という見方が根強く存在したのも事実だ。そうした逆風の中で、技術者たちは開発を続けてきた。だからこそ、今回のH3成功に「よくここまでたどり着いた」という実感が伴う。
一方で、世界に目を向けると状況はさらにシビアだ。
ロケット打ち上げの分野では昨日NASDAQに株式上場したスペースXが圧倒的な実績を積み上げている。年間打ち上げ回数で世界の大きなシェアを占めると言われ、日本の打ち上げ回数との差は歴然としている。内閣府の調べでは、スペースXは企業単位で年間165回、世界の半数を占める。一方、日本は3回だ。その最大の要因はやはり「コスト」だ。再使用型ロケットによって打ち上げ費用を大幅に削減し、市場競争力を確保している。
では、日本に勝ち筋はあるのか。この問いに対して、私は単純な価格競争だけでは測れない領域に可能性を感じている。
今回のH3・6号機には、宇宙ゴミの捕獲実験を行う静岡大学の「しらいと」や、海洋観測を担う東京科学大学の「うみつばめ」など、複数の超小型衛星が搭載されている。ここで見えてくるのが「産学連携」という軸だ。大学や研究機関が関与し、小型衛星という形で多様なミッションを乗せていく。この柔軟さは、日本の宇宙開発のひとつの強みになり得る。
そしてもう一つ、「信頼性」という視点も見逃せない。コストを下げるだけではなく、確実に軌道へ投入する精度、安全性、トラブルの少なさ。こうした要素には、日本人の細やかさや現場での丁寧な積み上げが活きる余地があるはずだ。
H3の成功は単なる一回の打ち上げではない。日本がこれから宇宙市場の中でどのポジションを取っていくのか、その再定義のスタートラインと言える。
そして何より、このプロジェクトを見て育つ若者たちの存在だ。宇宙を目指す人材が増えるかどうか。それは、この国の未来に直結する。夢を語れる分野があるということ自体が、社会にとっての力になる。
H3打ち上げ成功のニュースを読みながら、そんなことを考えた。夢は、まだ膨らみ続けている。
「毎日新聞デジタル」より


