【今日のタブチ】“欠点だらけ”のフジ月9と月10ドラマ――いや、待てよ……その「意外な戦略」に気がついた
今クールは、21時台の通称「月9」にGACKT氏が連続ドラマ初主演を務める『ブラックトリック~裁きを操る弁護人~』を放送。その後の22時からは関西テレビ制作、反町隆史氏主演の『GTO』が放送開始となった。
くしくも、GACKT氏と反町氏は1973年生まれの同い年だ。
最初にこの布陣を知ったときは、正直「なんだか、週の頭から暑苦しいなぁ」と思った。GACKT氏はもともとキャラが濃いし、反町氏が『GTO』で演じる鬼塚は熱血教師という設定だ。
そう警戒しながら、ドラマを観た。
ここからは個人の見解であり、あくまでも私の感想なのでご容赦願いたい。
『ブラックトリック~裁きを操る弁護人~』は建築士と弁護士という二つの顔を持つ主人公が、建築の知識を武器にさまざまな事件の真相を暴きながら依頼人を救っていくリーガルミステリーである。しかし、正直言ってトリックもいまいちパッとしない。建築士と弁護士という二足の草鞋を履いているという設定や、弁護士ではない別の顔としての職業の特性を活かして事件を解決するというくだりも、既視感が否めない。
GACKT氏の存在感と話題性だけで持っているようなドラマで、肝心のGACKT氏もいつもの“どや顔”以外の表現があまり見られず、表情の変化に乏しい。俳優としての限界を感じてしまう。これまでGACKT氏が連続ドラマ主演として起用されてこなかったのには、歴然とした理由があるわけで、そうしたことを無視した強引なキャスティングが招いた結果がこれかと頭を抱えた。
一方の『GTO』は『GTO』で、お決まりのギャグシーンの連続。昭和の教師がAIやデジタル授業に驚くというシーンから始まり、「さん」付け呼称問題から教員評価制度まで、現在の教育業界で話題のトピックをこれでもかとてんこ盛りにした設定に、開始10分ほどでお腹いっぱいになった。生徒とのトラブルに端を発し、その生徒に深く関わることで事件を解決してゆくというパターンもお決まりのものだ。目新しさはない。
実は私は、放送前の6月28日のこのブログで、『GTO』について「過去のヒット作頼みではないか」とかなり厳しいことを書いた。だから、今回の放送を観てもその印象がさらに強まるものと思っていた。
ここまで両ドラマの欠点ばかりを述べてきたが、そこで「いや、待てよ」と気が付いた。
私が指摘するような特徴は、それぞれのドラマの制作者たちが十分に理解しているはずだ。彼らは、“わかっていてあえて”やっているのではないか。
だとしたら、どういうことになるのか。
そこからが、このブログの真骨頂だ。
まず、この2連続のドラマ枠という特性に着目したい。月9はフジテレビ制作、月10はカンテレ制作。同じ系列局でありながら競争相手でもある2局が縦並びでドラマ編成されていることに、キー局フジテレビの戦略を感じる。
ライバル同士だからこそ、いい意味で切磋琢磨する。キャスティングにも当然力が入ったに違いない。これはとても良い効果を生み出していると予測できる。
また、ドラマのお決まりのシーン、お決まりの展開、お決まりのセリフというのは、意外にも最近のドラマ傾向の中では、逆に“新鮮”に映る。
現在、民放各局はドラマをIPコンテンツとして配信や海外展開に回そうと躍起になっている。だから若者層が喜びそうな奇抜な設定や突飛なストーリーを配してくる。しかし、今回のフジのドラマは、ほとんど“直球勝負”だ。小手先の工夫もない代わりに、「どうだ!」と言わんばかりの、ある種の潔さを感じる。
私もドラマプロデューサーだった時代に、こうした“直球勝負”の作品と、そうではない作品をタイミングによって使い分けて、打ち出していた。だとすれば、彼らもこれらの放送枠の特性や視聴者層を十分に研究したうえで、“あえて”こうしたコテコテの作りにしているのではないだろうか。
そして私は、なぜフジテレビが今そんな戦略に出ているのかを考えてみた。
ひとつは、テレビを最も見ている中高年層への再アプローチだろう。GACKT氏と反町隆史氏という、説明不要のスターを並べた編成にはそうした狙いが透けて見える。
また、さまざまな課題を抱える今のフジテレビにとっては、当たるかどうかわからない実験作よりも、「テレビドラマらしいテレビドラマ」で勝負する方が得策という判断もあったはずだ。
そして何より、Netflixをはじめとする配信サービスが台頭する時代だからこそ、同じ土俵で戦うのではなく、かつてテレビが最も輝いていた時代の連続ドラマの文法を、もう一度前面に押し出そうとしているように見える。
つまり、この2作品は単なるドラマではない。フジテレビ自身の意思表示なのではないか。
もし私の以上のような仮説が正しいとすれば、フジテレビは「原点回帰」を狙っているとも考えられる。純粋に「モノ作り」を考えていた時代に戻ろうとしているのかもしれない。
私自身、第1話を見終えた時点では、正直なところ両作品に“古臭さ”を感じた。しかし、改めて考えてみると、その“古さ”や“ベタさ”こそが、今回のフジテレビの勝負なのではないかと思えてくる。少なくとも『GTO』については、その狙いが一定の成果を上げているように感じた。
実際、私は鬼塚の熱血ぶりに、知らず知らずのうちに心の中で「頑張れ!」と応援していたし、「俺が抱きしめてやる」といって生徒を抱きしめる鬼塚の実直さに、自然と感動していた。これがフジテレビの戦略であれば、私はまんまとはまってしまったわけである。
配信全盛の時代だからこそ、逆に王道の価値が見直される。
そんな賭けにフジテレビが出ているのだとすれば、その結果は最後まで見届けたい。
かつてのテレビには勢いがあった。小手先ではない、直球だからこその力があった。
制作者魂を取り戻せ――。
私には、この月曜21時と22時のドラマ枠が、そんなメッセージを発しているような気がしてならない。
『ブラックトリック~裁きを操る弁護人~』
番組公式HPより


