【今日のタブチ】佐藤二朗氏か橋本愛氏か――その前に、フジテレビは本当にやるべきことをやったのか
ドラマ『夫婦別姓刑事』をめぐる騒動が大きな波紋を広げている。
週刊文春は、佐藤二朗氏が共演した橋本愛氏に対してハラスメント行為を行い、外部弁護士による調査で問題が認定されたと報じた。これに対して佐藤氏および所属事務所は、「事実とは異なる内容が含まれている」として全面的に反論している。
現時点で私たちに分かっていることは限られている。
橋本氏側は体調を崩したことなどを認めている。佐藤氏側は自身の行為はハラスメントに当たらないと主張している。双方の主張には明確な隔たりがある。
したがって、現段階で「佐藤二朗氏は加害者だ」と断定することも、「橋本愛氏が過剰な主張をしている」と決めつけることもできない。
ところが、SNSを見ているとそうした断定ばかりが飛び交っている。
佐藤氏を一方的に非難する投稿。
橋本氏を攻撃する投稿。
どちらも少なくない。
しかし、私たちは当事者ではない。
現場にいたわけでもない。
調査報告書の全文を読んだわけでもない。
それにもかかわらず、あたかも真実を見てきたかのような断言があふれている。
私はこうした状況に大きな危惧を覚える。
なぜなら、この騒動の本質は「どちらを支持するか」という代理戦争ではないからだ。
むしろ私が問いたいのは、もっと別のことである。
フジテレビは本当にやるべきことをやったのか。
そこだ。
報道や佐藤氏側が公表した声明によれば、フジテレビは橋本氏が過去のハラスメント被害によるトラウマを抱えていることを事前に把握していたという。制作段階でその情報は制作側に伝えられていたとされる。
一方で同じ声明では、フジテレビ側は「今作にはベッドシーンやキスシーンなどの性的なシーンが存在しないため、インティマシーコーディネーターを配置する必要はないと判断した」と説明されている。
私はこの判断に強い違和感を抱く。
認識が甘すぎるからだ。
なぜなら、インティマシーコーディネーターとは本来、ベッドシーンやキスシーンだけのために存在する職種ではないからだ。
近年の映像業界では、出演者同士の身体接触や心理的安全性について事前に合意形成を行い、トラブルを未然に防止する専門職という位置付けが広がっている。
つまり重要なのは「性的シーンがあるかないか」ではない。
認識の違いが生じる可能性があるかどうかである。
今回の問題をめぐる報道を見る限り、少なくとも結果として認識のズレは発生した。
ある側はハラスメントであったと訴え、ある側はハラスメントではなかったと反論している。それ自体が、現場における認識共有が十分だったのかという疑問を生じさせる。
私は元テレビ局員として断言したい。
テレビ制作の現場では、問題が起きてから対応するよりも、問題が起きない仕組みをつくることの方がはるかに重要である。もし橋本氏が過去の被害によるトラウマを抱えていることを制作側が認識していたのであれば、なおさらだったはずだ。
どこまでの身体接触が許容されるのか。
どのような演技について事前確認が必要なのか。
即興的な表現はどこまで認められるのか。
双方は同じ認識を持っているのか。
こうしたことを整理し、記録し、必要に応じて仲介する役割こそが求められていたことではなかったのか。
私は今回の件について、佐藤氏か橋本氏かという対立構図で見るべきではないと思う。
仮に佐藤氏側の主張が正しかったとしても問題は残る。なぜ誤解を生む状況が発生したのかという問題である。
逆に橋本氏側の主張が正しかったとしても問題は残る。なぜ被害を防げなかったのかという問題である。
どちらの場合でも、制作体制の検証は避けて通れない。
そして、その制作体制の中心にいたのはフジテレビである。
私はかつてテレビ局で働いていた人間として、あえて厳しく言いたい。
近年、フジテレビは人権意識やコンプライアンスの強化を繰り返し掲げてきた。それにもかかわらず、過去の被害によるトラウマを抱える出演者がいることを把握しながら、専門的な調整役を置かなかったとすれば、それは「ラブシーンがなかったから」という説明だけでは済まされない話ではないだろうか。
私は今回の件を、誰かを断罪するために書いているのではない。
SNSで飛び交うような加害者探しや被害者叩きに加わるつもりもない。
そうではなく、この騒動から私たちが学ぶべきことは、誤解や認識のすれ違いを防ぐ仕組みの重要性だと思う。
本当に問われるべきは、「誰が悪かったのか」だけではない。「なぜ防げなかったのか」である。
そして、もし制作側が事前に把握していたリスクに対して十分な備えを行っていなかったのであれば、それはまさに組織の問題である。
私は今回の騒動を見て、フジテレビは本当に過去の教訓を学んだのかという疑問を抱かざるを得ない。少なくとも私には、これは単なる俳優同士のトラブルには見えない。
再発防止という観点から見れば、最も重く問われるべきは現場を管理する制作体制そのものではないか。
フジテレビは速やかに事実関係を検証し、なぜこのような認識のずれを防げなかったのか、その原因を明らかにする責任がある。そして今後は、性的シーンの有無だけを基準にするのではなく、心理的安全性への配慮が必要な出演者がいる場合には、インティマシーコーディネーターの起用を積極的に検討すべきだろう。
それこそが、本当の意味で出演者を守ることであり、テレビ業界が信頼を取り戻すための第一歩だと私は思う。
「番組公式HP」より


