【今日のタブチ】私はコオイムシに及ばなかった――「子育てする雄はモテる」が教えてくれたこと

先日、コオイムシについての記事を読んで、思わず感心してしまった。

コオイムシは体長2センチほどの水生昆虫だが、その世界では雄が子育てを担当する。雌は雄の背中に卵を産み付け、雄はその卵を背負ったまま、ふ化するまで世話を続けるという。しかも雄は複数の雌の卵を同時に背負い、多いと100個以上になることもあるらしい。

昨今、人間社会では男性の育児参加が当たり前になりつつある。育児休業の取得も広がり、「子育ては夫婦で」という考え方も定着してきた。
しかし、コオイムシは、人間がそんな議論を始めるずっと前から、それを実践していたわけである。

私が特に面白いと思ったのは、「卵をたくさん背負っている雄ほど雌にモテる」という話だ。
最初は不思議に思った。卵を背負うということは、外敵に見つかりやすくなる。飛ぶことも難しくなる。雄にとってはかなりの負担だ。
ところが雌は、そんな雄を積極的に選ぶという。
理由は実に合理的だ。たくさんの卵が集まっている方が、自分の卵だけが外敵に食べられる危険を下げられるからだという。さらに、卵の世話をきちんと続けている雄であることも分かる

なるほどと思った。派手だからモテるわけでもない。強いからモテるわけでもない。ちゃんと子育てしているからモテる。
自然界とは本当によくできている。
この記事の中で、長崎大学の大庭伸也准教授は、この特徴は「人間の女性と男性がよりよい関係を築くヒントになるかもしれない」と話していた。
最初は「どういう意味だろう」と思った。
考えてみると、雌が評価しているのは雄の言葉ではない。行動である。「私は子育てを頑張ります」と言っている雄ではなく、実際に卵を背負っている雄を選んでいるのだ。
人間の世界も案外同じなのかもしれない。「家族を大事にしています」と口で言うのは簡単だ。しかし、本当に信頼されるのは、日々の生活の中で責任を果たしている人なのだろう。そう考えると、私自身はどうだったか。

正直に言えば、あまり偉そうなことは言えない。
子どもが小さかった頃、私は海外取材ばかりしていた。ふらっと外国へ出かけ、気がつけば何か月も帰らないことがあった。帰国したと思ったら編集所にこもり、家にほとんど帰らない日々が続いた。
当時は仕事に夢中だった。家族を養うためだとも思っていた。だが、今振り返ると、子育ての大部分を妻に任せきりにしていたことは間違いない。
大変な仕事を妻に押し付けて、自分は楽しい仕事に没頭していたのだから、最低だ。親として果たすべき責任の一部を放棄していたと言われても反論はできない。
そう考えると、私はコオイムシに及ばない、と思わざるを得ない。

もちろん、人間と昆虫を単純に比べることはできない。それでも、小さな昆虫の世界を眺めていると、なぜか考えさせられる。
コオイムシの雌は、雄の言葉ではなく行動を見ている。そして雄は、その期待に応えるように黙々と卵を背負い続ける。
私たち人間も、本当に大切なのは立派な言葉よりも日々の行動なのかもしれない。
それが、お互いへの信頼を生み出し、長い時間をかけてになってゆくのだろう。

日曜日の朝、そんなことを考えながらコオイムシの写真を見ていた。
体長わずか2センチの昆虫に、人生を教えられた気がした。

「ナショナルジオグラフィック日本語サイト」より

【今日のタブチ】私はコオイムシに及ばなかった――「子育てする雄はモテる」が教えてくれたこと” に対して2件のコメントがあります。

  1. 出口勇人 より:

    いい話だ!
    私も身につまされる思いだ、、

    1. 田淵 俊彦 より:

      出口様
      コメントありがとうございます。
      私たちの世代は、そういうことが美徳であり、親の務めであると思い込んでいましたよね。
      そういう先入観や固定観念を昆虫が教えてくれることに、私はいま生きている喜びを感じています。
      少しでも長く生きるということは、悪くはないですね。
      田淵 拝

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