【今日のタブチ】社員より学生が選ばれたワケ――ノジマ「学生店長」が突きつけた現実と私たちの先入観
家電量販店大手のノジマが、大学3年生のアルバイト2人を店長に登用したというニュースが話題になっている。しかも肩書だけではない。予算管理や採用権限を持ち、待遇も責任も正社員の店長と同等だという。同社では初となる「学生店長」の誕生である。
このニュースを見て、多くの人は驚いたのではないだろうか。
「学生に店長が務まるのか」「責任が重すぎるのではないか」そんな声も聞こえてきそうだ。
だが、私はこのニュースそのものよりも、私たちがそれを聞いて驚いていることの方に興味を持った。
なぜ私たちは驚くのだろう。そこには、「学生は正社員より仕事ができない」「若者は経験が少ないから任せられない」「アルバイトは責任ある立場には向かない」という先入観があるからではないだろうか。
もちろん、経験は重要だ。社会に出て初めて学べることも多い。しかし、一方で、年齢と能力、雇用形態と能力が必ずしも一致しないこともまた事実である。
実際、今回の学生店長に選ばれた2人は、接客や販売実績だけでなく、学生アルバイトの育成などでも高く評価されたという。ノジマは年齢や雇用形態ではなく、成果や貢献度を重視する「貢献序列」の考え方を採用しており、今回の登用もその延長線上にある。
私は大学教員として日々学生たちと接しているが、正直なところ、今回のニュースを聞いてもそれほど意外には思わなかった。
特に私が所属する桜美林大学芸術文化学群には、驚くほど高い能力を持つ学生が少なくない。
彼らに共通しているのは、自分の将来像を明確に描いていることだ。俳優になりたい。映像監督になりたい。プロデューサーになりたい。アーティストとして世界で活躍したい。自分が実現したい未来を具体的に思い描くことができる。そして、その実現のために何を学び、何を経験すればよいのかを考えながら行動している。
私はこれをアート思考の強みだと思っている。
ビジネスの世界ではよく「正解を見つける力」が重視される。しかし、アートの世界では、まだ存在しない未来を構想する力が求められる。
だから芸術文化学群の学生たちは、自分なりの成功像を描くことが比較的得意だ。
目標が見えている学生は強い。進む方向が定まっているから迷いが少ない。実際、授業やプロジェクトを通じて、社会人顔負けの企画力や行動力、調整能力を発揮する学生を私は何度も見てきた。時には私自身が驚かされることもある。
今回のニュースでもうひとつ興味深いのは、ノジマが単なる家電量販店ではないことだ。
同社はこれまでも通信やインターネット分野へ積極的に進出し、ニフティを傘下に収め、近年ではVAIOの買収にも乗り出すなど、大胆な挑戦を続けてきた企業である。つまり今回の学生店長も、単なる話題づくりではない。「能力がある人には年齢に関係なくチャンスを与える」という企業文化の表れなのだろう。
もちろん、背景には深刻な人手不足もあるはずだ。だが、それだけなら店長という重責を学生に任せる必要はない。そこには、「若者を信じて任せる」という意思が見える。
日本社会は長らく年功序列を前提としてきた。若いうちは経験を積み、年齢を重ねてから責任ある仕事を担う。その考え方にも合理性はある。しかし、同時に、能力のある若者が挑戦する機会を失ってきた面もあるのではないか。
ノジマの決断は、その常識に一石を投じた。
今回のニュースは、単に「学生が店長になった」という話ではない。私たちが無意識に持っている先入観が問われているのである。
私は大学で多くの学生たちを見てきた。その中には、年齢や肩書では測れない力を持った若者が確かにいる。ノジマが見抜いたのは「学生」という属性ではなく、一人ひとりの能力だった。
私たちもまた、人を見るときに肩書ではなく可能性を見ることができるだろうか。
今日のVoicyでは、私の大学・桜美林大学芸術文化学群の学生たちの驚くべき「アート脳」について話しています。ぜひお聞きください!
#067 「学生だから無理」なのか?ノジマの学生店長が教えてくれたこと
https://voicy.jp/channel/1027821/8275345
「読売新聞オンライン」より

