【今日のタブチ】「なんで大学を出てこんなことを?」と思った私が学生に伝える“雑務”の意味
昨日は田淵ゼミのゼミ生が、バラエティ収録現場の体験学習に参加した。これは、私が本学・桜美林大学に入職した2023年からずっと継続している。受け入れ先は、私の長年の盟友的存在である佐藤和之氏が代表取締役を務める、制作会社スペード・ワンである。
毎回、2人から4人ほどの希望者の学生を受け入れてくれて、バラエティの収録現場を体験でき、なおかつちゃんとバイト代まで出してくれる。なかなかできることではない。
昨日は、TBSで放送されているバラエティの収録が、TMCスタジオでおこなわれた。学生は、先週金曜日の準備の日には、スペード・ワンでカンペを書いたりスケジュール表を作ったり、台本を整えたり、収録時に使用する備品を揃えたりするという雑務をおこなう。この雑務は、学生たちにとっては“退屈な”作業に見えるかもしれない。しかし、テレビ制作に限らず、クリエイティブの現場は準備で決まる。これがとても大切であることを私は知っている。
『オーシャンズ』シリーズのスティーヴン・ソダーバーグ監督も言っている。
「プリプロダクションに1週間かける監督と、1日しかかけない監督では、現場での判断力がまったく違う。準備を怠れば、どれだけ予算があっても取り返しのつかない失敗が起きる。撮影は、すでに頭の中で終わっていなければならない」
だが、私がADのときには若く浅はかだったので、「なんで大学出てこんなことをしなければならないのか」という愚かなことを考えることもあった。だが、例えば弁当を発注するのも、スタッフのことを考え知恵を絞らなければならない。弁当を配る作業も、どのセクションにどんな人がいるのかを知り、そんな人たちとコミュニケーションを取るきっかけに繋がる。そんなことが分かったのは、ADになって1年以上経った時だ。目の前の作業だけを見ているうちは雑務にしか見えない。しかし、その仕事が全体のどこにつながっているのかが見えた瞬間、意味のある仕事へと変わる。
だが、わがゼミ生たちはその経験をすでに今からでき、もしかしたらそんな思いを抱きながら準備作業をするという過程を経ることができる。これは大きなことだ。しかもそれを“学び”として習得できる。私のAD時代には、「これも大事なプロセスなんだよ」なんてことは誰も教えてくれなかった。私はことあるごとにそんな自らの経験に基づいた実感を話しているので、学生たちはよくわかっている。これはとても大きな収穫だ。
そしてもうひとつ、この現場研修において私が肝要だと思っていることがある。それは、スペード・ワンの佐藤氏の心意気だ。
恒常的な人手不足にあるテレビ業界において、いつも佐藤氏は私に「田淵ゼミの学生さんはとても優秀なので、ぜひうちに入りたいという人がいたらぜひお願いします」とリップサービスも含め言ってくれる。だが、まだそれが実現したことはない。なかには、スペード・ワンの研修を経験し、ほかの制作会社に入った者もいる。それでも佐藤氏は毎回、声をかけてくれる。これが何よりも嬉しい。
テレビの経歴が長い佐藤氏は、こういったことが業界全体の底上げにつながることを良く知っている。「自分の会社が良ければよい」という考え方ではなく、純粋に「優秀な人材を育てたい」と思ってくれている。こうした姿勢こそが、結果として業界全体の底上げにつながる。私はそこに、佐藤氏のプロデューサーとしての矜持を感じている。
昨日は私も引率として収録に立ち会った。参加した3名の学生たちは、セットの上手と下手にわかれ、インカムをつけてスタンバイをする。そして収録が途切れるたびに、セット内で使う小道具などの出し入れや「場見り」をおこなう。その表情は緊張しているのか真剣だ。この「真剣に取り組む」経験こそが人を成長させる。
私は毎回、参加学生に事前にレクチャーをする。多くは語らない。2つだけを述べる。
ひとつは、とにかく明るく元気よく挨拶をするということだ。これは基本中の基本。現場で「挨拶が気持ちいい」といって好かれる者は、皆から可愛がられ、伸びる。もうひとつは、メモを取れということ。人間は「そんなことは覚えていられる」とそのときは思う。だが、後になって忘れる生きものだ。また、メモを取っている姿を観ると周囲の人たちも「熱心だ」と評価してくれる。そういった自己アピールも必要だ。
私は大学教育の役割の一つは、こうした経験に言葉を与えることだと思っている。同じ現場を体験しても、ただ「楽しかった」で終わる者もいれば、自らの将来や仕事観を見つめ直す者もいる。その違いは、経験をどう解釈するかにある。
さて、現場研修の翌日には提出期限となっている学生からの「学びのレポート」にどんな“気づき”が記されているか。読むのが楽しみだ。
今日のVoicyは、私のAD時代の不謹慎な考え「なぜ大学出て、弁当配らなきゃいけないの?」について話します。ぜひお聞きください!
#070 大学を出て、なぜ番組制作現場で弁当を配らなければならないのか
https://voicy.jp/channel/1027821/8281311


