【今日のタブチ】政府PR動画59億円の本当の問題――私が恐れる「映像はうそつきだ」という刷り込み
政府が2027年度予算の概算要求で、動画制作やインターネット広告などの広報関連経費として約59億円を計上したという報道を読んだ。
記事によれば、その多くは高市政権の政策をアピールする動画制作などに使われるという。実際に公開されている動画も紹介されていたが、私が率直に感じたのは「これは広報というよりプロモーションに近いのではないか」という違和感だった。
広報とプロモーションは似ているようで、本来は違う。
広報とは、良い話も悪い話も含めて情報を開示し、社会との対話を通じて理解を得ようとする活動だ。
一方のプロモーションは、自分たちが伝えたいメッセージを効果的に届け、好意や支持を獲得することを目的とする。
もちろん、現実には両者が完全に分かれているわけではない。しかし今回の動画を見る限り、私には「政策を説明する広報」というより、「政権のイメージ向上を図るプロモーション」に近く見えた。
実は、こうした傾向は今回に始まった話ではない。
最近も、鈴木憲和前農相がイチゴのかぶり物で出演する動画が話題になった。農産物をPRする意図は理解できる。しかし、私には政策を説明する映像というより、政治家を親しみやすく見せるための映像に見えた。
もちろん、イチゴのかぶり物が問題なのではない。私が気になるのは、政府広報がいつの間にか政策説明よりもイメージ戦略の色彩を強めているように見えることだ。
今回の59億円という予算も、その延長線上にあるように私には見える。
なぜそう感じるのか。
最大の理由は、一方通行だからである。報道にもあるように、コメント欄は閉じられている。視聴者は意見を書くこともできなければ、異論を述べることもできない。賛成も反対もできない。ただ見せられるだけだ。
しかし、私は以前から、民主主義において本当に重要なのは賛成か反対かではないと述べ続けている。
賛成する人がいてもいい。反対する人がいてもいい。問題は、その前に考える機会があるかどうかだ。
「なぜこの政策なのか」「他の方法はなかったのか」「反対意見にはどんな主張があるのか」
そうした問題意識を持つことこそが大切なのである。
ところが今回の動画には、その入り口が見えない。
理解してもらう。納得してもらう。支持してもらう。そうした意図ばかりが前面に出ているように感じる。それは健全な広報なのだろうか。私には疑問が残る。
ただ、私が最も恐れているのは、そこではない。
59億円という予算額でもない。高市首相の宣伝になるかどうかでもない。
本当に怖いのは、こうした映像が繰り返されることで、国民が「映像そのもの」を信用しなくなることだ。
私は長くテレビの世界で仕事をしてきた。映像が持つ力を誰よりも知っているつもりだ。映像は分かりやすい。映像は感情に訴える。映像は複雑な情報を短時間で伝えられる。だからこそ、本来は慎重に扱わなければならない。
ところが政府が率先して、自らに都合のよいテーマを選び、自らに都合のよい形で編集し、一方通行で発信するようになると、人々の頭の中には次第にこんな感覚が生まれてくる。
「映像は信用できない」「映像は切り取りだ」「映像は都合のいいことしか見せない」
それは政府広報への不信だけでは終わらない。やがてニュース番組にも向かう。ドキュメンタリーにも向かう。テレビそのものにも向かう。
私は大学で学生たちに時々尋ねる。
「テレビはオワコンだと思うか」
すると意外に多くの学生が、まだそうではないと答える。理由を聞くと、「ネットより信頼できるから」という答えが返ってくることが少なくない。
実はテレビに残された最後の財産は、視聴率でも影響力でもない。
信頼なのである。
ところが、「映像はプロパガンダの道具だ」「映像は権力者の宣伝装置だ」という印象が社会に定着してしまえば、その信頼は少しずつ失われていく。
それは高市政権だけの問題ではない。将来のどの政権でも起こりうる。さらに言えば、映像メディア全体の問題になる。
映像は人を騙すための道具ではない。社会の理解を深めるための道具である。
異なる立場の人々の考えを知り、複雑な問題を考えるきっかけを与えるための道具である。だから私は、59億円という数字よりも、その先にあるものが気になる。もし国民が「映像なんてどうせ嘘だ」と思うようになったらどうなるか。
失われるのは政府への信頼ではない。映像文化そのものへの信頼である。そして、それを取り戻すには何十年もかかる。
私はそこに、この問題の本当の怖さがあると思う。
今日のVoicyは、放送局時代の私の経験から観た、政府広報動画59億円の“落とし穴”についてお話ししています!
#085 政府PR動画59億円、本当に怖いのは予算ではない
https://voicy.jp/channel/1027821/8328861
「東京新聞デジタル」より


