【今日のタブチ】なぜ『ちいかわ』は139億円を突破したのか?映画館で見つけた“かわいい”だけではない「ヒットの秘訣」

昨日、映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』を観てきた。
正直に言うと、私はこれまで『ちいかわ』を少し誤解していた。「かわいいキャラクターが活躍する子ども向けアニメ」という程度の認識だったのである。
だが、その考えは完全に打ち砕かれた。
もちろん、作品そのものに興味がなかったわけではないが、それ以上に興味があったのは、その異常とも言えるヒットの理由だった。興行収入は139億円を突破し、観客動員は849万人を超え、公開から時間が経っても週末興行ランキングの首位に返り咲くほどの勢いを維持している。ここまでの社会現象になる理由はどこにあるのか。映像制作やコンテンツ制作に携わってきた立場から、一度きちんと見ておきたいと思った。
もちろん我が家の子どもたちが大ファンで、「お父さん、観ておいた方がいいよ」と勧めてきたことも理由の一つである。

まず、この作品の世界観が優れていることについては、多くの人が語っているのでここでは繰り返さない。
むしろ私が評価したいのは、もともと大手漫画雑誌発のキャラクターではなく、イラストレーターのナガノ氏がSNSを起点として地道に育ててきたコンテンツである点だ。これは従来のキャラクタービジネスとは明らかに異なる。

では、なぜここまで幅広い世代を巻き込み、社会現象になったのか。

私はその理由の一つが、現代社会との不思議な共鳴関係にあると感じた。この作品を一言で表現するならば、「極端」である。
ちいかわたちは徹底的にかわいい。動きも表情も声も愛らしい。しかし、その反対側には島二郎やセイレーンといった、かなり不気味で恐ろしい存在が配置されている。かわいらしい世界の中に、時として子ども向け作品とは思えないほどの不穏さや残酷さが顔を出す。このギャップが実に大きい。
だが、私はそこに現代社会との共通点を見る。
私たちは、先が見えにくい時代を生きている。昨日まで順調だった会社が突然傾く。SNSで無名だった人が一夜で有名になる。自然災害や感染症が突然日常を変えてしまう。安心と不安、幸福と不幸が隣り合わせの世界で生きている。
まさにVUCAの時代である。

そう考えると、『ちいかわ』が描く世界は意外なほど現代社会に近い

かわいいものと恐ろしいもの。優しさと理不尽さ。平和な日常と突然訪れる危機。その振れ幅こそが、多くの人が無意識に感じている現実感覚と重なっているのではないだろうか。

もう一つ、この作品を観ていて感じたのは、高度なつくりになっていることだ。
もちろん子どもたちは、ちいかわたちのかわいらしさや冒険の面白さを楽しめる。しかし、その一方で、大人が観ても「なるほど」と思わせる要素が随所に散りばめられている。例えば、本作の中心となるセイレーンはギリシャ神話に登場する存在を思わせる。さらに、人魚の肉によって永遠の命がもたらされるという設定には、日本の八百比丘尼伝説を連想した人も少なくないだろう。
そして私が最も興味深いと感じたのは、善悪を単純に描いていないことである。
普通の子ども向け作品なら、悪役を倒して終わりだ。しかし、本作は違う。島民には島民の事情があり、セイレーンにはセイレーンの怒りの理由がある。誰か一人を絶対悪にして片付けることができない。むしろ悲劇的な物語のように、それぞれが自分なりの理由を抱え、その結果として対立が生まれている。
私がテレビ番組を制作していた頃、子ども向けの動物ドキュメンタリーであっても、「大人が観ても『なるほど』と思えるものでなければならない」ということを常に意識していた。なぜなら、テレビをつけてチャンネルを合わせるのも、実際に子どもを映画館へ連れて行くのも、親だからである。
子どもだけが楽しい作品では弱い。子どもは素直に楽しみ、大人はその奥にある意味を読み取る。その両方が成立して初めて、本当に強いコンテンツになる。『ちいかわ』は、まさにそうした構造を持っている。
子どもには冒険物語として映る。大人には神話や伝承、そして単純には割り切れない現代社会の縮図として映る。

そして、もう一つ見逃せないのが、その「かわいさ」が映画館の外まで持ち帰れることである。
我が家にも家にはぬいぐるみがいくつもあり、子どもたちは毎日のように抱きしめては「かわいい~」と頬ずりをしている。その姿を見ていると、現在放送中のドラマ『君の好きは無敵』の世界そのものだと思う。映画の興行収入139億円という数字ばかりが注目されるが、本当の強さはそこだけではない。映画を観て終わりではなく、ぬいぐるみやキーホルダー、文房具などを通して、その世界観を日常生活の中へ持ち帰ることができる。
コンテンツビジネスとして見たとき、『ちいかわ』の強さはまさにそこにある。作品への愛着が映画館を出た後も続き、家の中でも、学校でも、職場でも、『ちいかわ』と接点を持ち続けることができるのだ。
だからこそ、これほど幅広い世代を巻き込み、巨大なコンテンツへと成長したのだろう。

私は映画館を出ながら思った。
この作品は、「かわいいから人気」なのではない。
むしろ、不安定な時代を生きる私たちが、自分たちの姿をそこに見ているから人気なのではないか。
そんなことを考えさせられる、予想以上に奥行きのある作品だった。
「子ども向けアニメ」と侮るなかれ!皆さんも、ぜひ観てみてほしい。

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#040 『ちいかわ』139億円ヒットと『君の好きは無敵』の意外な共通点
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映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』公式サイトより

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