【今日のタブチ】ストーカー対策の盲点となってきた「加害者臨床」――警視庁と心理士連携が示す“遅すぎた”転換点
今日のニュースで、ストーカー加害者への対応をめぐり、警視庁が心理士団体と連携を始めたという記事を読んだ。
ストーカー被害のエスカレートを防ぐため、警察が単に警告や取り締まりを行うだけでなく、加害者本人に対して心理面から働きかけ、医療機関の受診やカウンセリングにつなげる――そうした仕組みを本格的に導入するという内容だ。全国の警察としては初めての取り組みとされる。
背景にあるのは、あまりにも低い受診率である。警視庁が受診を勧めたケースのうち、実際に医療機関などにつながった割合は、2024年で0.4%、2025年でも2%にとどまる。ほとんどの加害者が「自分は病気ではない」などと受診を拒否しているのが現実だ。 つまり、これまでの制度は「必要性を理解している側」が一方的に促す構造であり、当事者本人には届いていなかった。そのギャップを埋めるために、警察と心理職が直接つながる仕組みをつくる――今回の連携は、その意味での転換点であり、大きく評価したい。
この記事を読みながら、二人の人物の顔が浮かんだ。
一人は、このブログでも何度か触れてきた小早川明子氏だ。今年2月19日、66歳で亡くなった。
ストーカー被害者支援の草分け的存在でありながら、同時に一貫して「加害者に働きかけなければ被害は止まらない」という立場を取り続けてきた人物でもある。自身も被害者でありながら、その経験を出発点に加害者のカウンセリングに踏み込み、数百人規模で面談を重ねてきた。その実践は、今日ようやく制度化されつつある発想を、はるか以前から提示していたと言っていい。
もう一人は、私の大学時代のゼミ同期であり友人でもある太田達也氏だ。
太田氏は刑事法・刑事政策の分野で長く研究を続ける中で、ストーカー問題についても、単なる処罰や隔離では再発防止に限界があること、加害者本人の内面や行動原理に働きかける必要性を早くから指摘してきた。実際、警察庁の調査研究にも関与し、加害者に対する心理学的・精神医学的アプローチの必要性とその制度設計について議論している。
つまり、この問題の核心は「どう取り締まるか」ではなく、「どう変えるか」にあるという認識である。
考えてみれば、今回の警視庁の取り組みは、まったく新しい発想ではない。むしろ、現場や研究の中で繰り返し提起されてきた論点を、制度としてようやく受け止めたにすぎない。
問題は、その時間差である。
ストーカー事案は繰り返し重大事件に発展してきた。警告も、禁止命令も、そして検挙ですら、必ずしも再発を防げないケースがあることは、すでに指摘され続けてきた。それでもなお、加害者に直接働きかける仕組みは限定的であり、制度の中核には据えられてこなかった。
だから、今回のニュースを読んで感じたのは、「前進」よりもむしろ、「到達」という感覚である。評価はするが、意外性はない。
社会が一歩進んだというよりは、小早川氏や太田氏のような人たちが、ずっと前から指し示していた地点に、ようやく辿り着いた――そんな印象だ。だからこそ、この記事には少し特別な重みがある。
一つの制度が動き出したという事実以上に、「見えていながら、長く見過ごされてきた発想」が、ようやく正面から扱われ始めたという意味で。
感無量、という言葉で済ませるには、少しだけ時間がかかりすぎた。
「日テレNEWS NNN」より


