【今日のタブチ】記録的豪雨で成田空港7,000人足止めの“ひとり”になった――バリ島テロ翌日とスーダン脱出劇で見た「人間の無力さ」
日本に帰ってきた。だが、私の旅がおいそれと平穏に終わるわけがない。
成田空港に飛行機は無事到着したものの、記録的な大雨で電車が運休。帰宅しようにもできない状態だ。報道によると7,000人以上が空港に足止めされているというが、私の感覚ではもっと多いように思える。
最初は成田エキスプレスで帰ろうとしたが運休。今度はリムジンバスに切り替えようとしたものの、こちらも夕方近くまで満席だった。
思えば、私は、空港で足止めされる人々の不安や焦りを目の当たりにする、そんな場面に何度も遭遇してきた。
最も印象に残っているのは、今回訪れたバリ島にまつわる出来事である。
2002年10月12日、バリ島クタ地区で大規模な爆弾テロが発生した。欧米人観光客で賑わうナイトスポット「パディーズ・パブ」と「サリ・クラブ」が標的となり、202人が死亡、200人以上が負傷した。東南アジアの過激派組織ジェマ・イスラミア(JI)による犯行で、世界に衝撃を与えた事件だった。
そのとき、私はバリにいた。
しかも帰国予定日は翌日の10月13日。私はデンパサール空港へ向かった。
すると目に飛び込んできたのは、空港の外まで溢れ返る人の群れだった。その多くはオーストラリア人と思われる人たちだった。前夜の惨劇の衝撃が島全体を覆い、多くの人が一刻も早く帰国しようとしていたのである。
空港には緊張感が漂い、人々の表情から笑顔は消えていた。昨日まで「楽園」だった場所が、一夜にして別の顔を見せた瞬間だった。
もう一つ忘れられないのは、2011年から2013年にかけてスーダンでドキュメンタリー取材を行った際のことである。
当時のスーダンでは反政府デモや暴動が続き、国内の情勢は極めて不安定だった。首都ハルツームでは空港が閉鎖されるとの噂が広がり、出国を急ぐ人々が空港へ殺到していた。「飛行機が爆破された」という酷い噂まで聞こえてくるほどだった。
そのとき私たちの取材班には、現地レポーターとして俳優の瑛太氏(現・永山瑛太氏)が同行していた。チームリーダーだった私は、何としても彼と取材班を無事に出国させなければならなかった。
そこで、本来なら決して認められることではないと承知しながらも、現地コーディネーターと相談し、空港職員に金銭を渡して便の手続きを進めてもらうという選択をした。
正直に言えば、いま振り返っても褒められた話ではない。だが、目の前にいるスタッフと出演者を安全に帰国させることが、その時の私の責任だった。
そして今、私は成田空港で足止めを食らっている。もちろん、今回はテロでも暴動でもない。ただの大雨である。
だが、人間が自分の力ではどうにもならない状況に置かれるという意味では、どこか共通しているようにも感じる。
バリで見た不安そうな旅行者たち。スーダンで出国を急ぐ人々。そして今日の成田で帰宅の手段を失った人たち。
規模も事情もまったく違う。しかし、人は予期せぬ出来事の前では驚くほど無力だ。
私自身もそうだ。
だからこそ、こうした出来事に遭遇するたびに思う。
人間は思っているほど強い存在ではない。そのことを忘れず、少しだけ謙虚に生きていかなければならないのだと思う。


