【今日のタブチ】みんなが同じ方向を向いていないか――河原の石ころを拾い続ける美術家・高島亮三氏の言葉にハッとした

近藤雅斗『エンタメビジネスの不都合な事実』を読んだ。

正直に言うと、帯にある「エンタメスタートアップ創業者が語る『夢の産業』の残酷なリアル」というコピーほどの驚きはなかった。意外な“不都合な事実”が次々と明かされるというより、業界にいる人間ならある程度は想像できる内容が多い。少々煽り過ぎではないかという印象も受けた。

だが、それでも発見はいくつかあった。

最も印象に残ったのは、アニメ業界の危機はアニメーター不足だけではないという指摘だ。もうひとつの深刻な問題として「原作枯渇」が挙げられていた。

出版業界全体が厳しい状況に置かれていることは周知の事実である。しかし私は、少なくともアニメ化やドラマ化につながる漫画やWebコミックの世界は比較的活況を呈しているものと思っていた。ところが、実際にはアニメ化やドラマ化に耐え得る有力な原作の争奪戦が激しくなっているという。

そう考えると、最近のドラマ業界の動きも少し違って見えてくる。
例えば、BSテレ東で始まった『ドライな同期の溺愛癖』は、2022年から配信されている電子コミック『ドライな同期の溺愛癖』(碧依ぺき原作)の実写ドラマ化である。近年は紙の漫画だけでなく、電子コミックにまで原作探索の範囲が広がっていることを感じさせる。

テレビ業界は長年、原作重視でドラマを制作してきた。視聴者への認知度や制作リスクを考えれば、それは合理的な判断だったのだろう。しかし、原作そのものが不足し始めているのだとしたら話は変わる。
そんなことを考えながら、美術家の高島亮三氏の記事を読んだ。
高島氏は、河原で見つけた石ころや、公園で見つけた干からびたカエルなどを半世紀近く拾い集めているという。
正直なところ、多くの人には価値が分からないものばかりだろう。私なら家に持ち帰った瞬間に家族から苦情が出そうだ。しかし、その収集への執念には圧倒された。
そして何より、こんな言葉が胸に残った。

「ほかの人が意識していないものにいかに関心を持つか」

まさしく、これだと思った。
ほかの人と違う視点を持つ。ほかの人と違うことを考える。ほかの人が興味を持たないものに目を向ける。
発見や発明の芽というのは、案外そんなところから生まれるのだろう。
そこでふと思った。

エンタメ業界が本当に直面している問題は「原作枯渇」なのだろうか。

確かに有力な原作は不足しているのかもしれない。しかし、皆が同じ方向ばかりを向いて原作を探しているから枯渇して見えるだけではないのか。

河原の石ころの中に価値を見いだす人がいる。干からびたカエルに面白さを見つける人がいる。
そうであるなら、誰も注目していない出来事や人物、風景の中にも、まだ見ぬ物語の種が眠っているはずだ。

『エンタメビジネスの不都合な事実』で近藤氏が指摘する業界の課題も、必ずしも大企業や経営側だけの問題ではないのかもしれない。
クリエイター自身が、皆と同じ場所で同じ原作を探している。もしそうだとしたら、本当に必要なのは原作探しではなく、視点の転換なのだろう。
原作不足を嘆く前に、まだ誰にも拾われていない原石を探す。
高島氏の言葉を読んで、そんな当たり前のことを改めて考えさせられた。

少なくとも私は、もう少し人が見ていないところを見てみようと思う。

「読売新聞デジタル」より

【今日のタブチ】みんなが同じ方向を向いていないか――河原の石ころを拾い続ける美術家・高島亮三氏の言葉にハッとした” に対して2件のコメントがあります。

  1. 出口勇人 より:

    いいな!いい視点のコメントだ!
    新規開拓、新しい視点、そんなことが世間の目を引くことは間違いないだろう。さらに、それを繰り返すことや粘り強さがあればいいのかも、と感じました。

    1. 田淵 俊彦 より:

      出口様
      コメントありがとうございます!
      学生にも、「社会に出て、経験則が邪魔する前に、発想力を磨いてね」と言ってます。
      田淵 拝

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