【今日のタブチ】医師を減らす前に考えるべきこと―イギリスと日本、医療政策を「比較」して見えてくる決定的な違い

今日は、医療をめぐる二つの話題について書いてみたい。

一つ目はイギリスの動きだ。
2009年1月1日以降に生まれた人に対し、生涯にわたって紙たばこや電子たばこの販売を禁じる法案が議会を通過したという。今後、チャールズ国王の裁可を経て成立する見通しだと報じられている。世代を限定してたばこ販売を禁止するのは、モルディブに続いて世界で二か国目だそうだ。かなり思い切ったことをやるな、というのが率直な印象である。
この法律では、違反した販売業者に対する罰金などの罰則規定も設けられるという。背景には、喫煙による健康被害を減らすことで、税金で成り立つ国家医療制度への負担を軽減したいという政府の狙いがある。疾病が発生してから対応するのではなく、そもそも健康被害の入口を塞ごうとする発想だ。

もう一つは日本の話である。
財務省が、大学医学部の定員を「大幅に削減すべきだ」と提言した。人口減少が進む中で、将来的に医師数が過剰になるとの見通しを示している。また、理系人材が相当数医師に取られていることへの懸念を示し、人材の最適配分は喫緊の課題だとも述べている。
だが、私はこの財務省の考え方はあまりにも性急だと感じている。

確かに、数字の上では医師数が増えているのかもしれない。しかし、現実には医師は都市部に集中し、地方では慢性的な不足が続いている。医師の総量だけを見て「多いから減らす」という議論をしてしまえば、地域偏在の問題はさらに深刻化しかねない。局地的に医療が崩壊する可能性について、どのように考えているのだろうか。
医療の現場では、AIの進出が進んでいるのも事実である。診断支援や事務作業の効率化によって、将来的に医師の役割が変わり、余剰が生まれる可能性も否定はできない。だが、それは医療の提供体制や地域医療の在り方を丁寧に組み替えていった先の話ではないだろうか。

今回取り上げたイギリスと日本の二つの事例には、どちらも「国家財政」と「医療」を結びつけて考えているという共通点がある。しかし、その出発点には大きな違いがあるように思う。
イギリスの場合、財政の話に行き着く前に、まず国民の健康被害をどう減らすかという問いが置かれている。将来の医療費を抑えるために、いま何を防ぐべきか。その結果として、たばこという明確なリスク要因に踏み込んだ。
一方、日本の議論はどうか。医師が多いから減らす、医療分野に集まった人材を他に回したいから定員を削る。そうした理屈が先に立ち、医療を必要とする人の側から物事を考えているようには見えない。地域間の医療格差をどう是正するのかという問いは脇に置かれたままだ。

医療を国家財政の問題として捉えること自体は、決して間違いではない。だが、その際に「人を減らすこと」から始めるのか、「健康被害を減らすこと」から始めるのかで、政策の方向性は大きく変わる。
日本の医療政策は、本当に患者や国民の側に立って組み立てられているのだろうか。それを私たち国民の一人ひとりが考える必要がある。
今回の日本における提言も、その内容を聞くと「ちゃんと先々のことを考えているな」と思うかもしれないが、他国の施策と比べてみることで、国内の議論だけでは見えにくかった前提や欠点に気づくことができるのではないだろうか。

「BBC NEWS JAPAN」より

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